便秘・下痢

化学療法の薬と便秘

べんぴ先生

今日は化学療法の薬について勉強していこな。

 

ガンコちゃん

よろしくお願いします。

べんぴ先生

ここでは抗がん剤吐き気止めについて考えるよ。

まずはじめに。抗がん剤は患者さんというのはもちろん体のどこかに癌がある患者さんに対して使うんやけれども、担癌患者さん(癌を患っている患者さんのこと。たんがんと読みます)はものすごく便秘を起こしやすい状況にあるということを理解する必要があるんや。

 

ガンコちゃん

なんで便秘になりやすいんですか?

 

べんぴ先生

ちょっとまとめてみたで。

 

 

 

 

 

べんぴ先生

まず自分が癌になったと聞いたらショックを受けない人はおらんやろ?

その上抗がん剤を始める精神的なストレスというのは、おそらく人生で味わったことのないほどのものやないかと思う。

そんな時にどんどん運動して食事をしっかりとって、というのはよほどのメンタリティーがない限り無理やろな。僕なら無理や。

病気そのものによっても運動量や食事量も減ってしまうしな。

 

ガンコちゃん

自分が癌になる・・・考えたこともないですね。でも辛いっていうのだけはわかります。

 

べんぴ先生

うん、想像力は大事やよ。

「病気そのもの」に関して話すと、胃ガンとか大腸ガンとか消化管にできる癌が便秘を引き起こしやすいっていうのは簡単にわかるやろ?

それだけじゃなくて腹膜転移になっていて大腸が締め付けられると便も出にくくなる。ひどい場合やと腸閉塞になるわ。

あとは脊髄に腫瘍ができると膀胱直腸障害(ぼうこうちょくちょうしょうがい)になることがある。尿も便もうまく出せなくなるという意味や。

 

ガンコちゃん

色々あるんですねえ。

 

べんぴ先生

担癌患者さんが便秘で困った時にはCT検査は必ずするようにしてるよ。

腸閉塞が原因となると何らかの処置を必要とすることが多いからね。

あとは大きい便が硬くなりすぎて直腸に詰まってしまう患者さんがおられる。その時は意外と患者さんは「下痢で困ります。」と言われるんや。これは溢流性下痢といって体の正常な反応なんや。どうにかして便を体から出そうとして便が水っぽくなるんや。

この硬い便を浣腸やら摘便(指で直接便を掻き出すこと。)やらでとってあげると普通の便に戻ることが多い印象や。

他にもいろんな理由で癌が便秘を引き起こすんや。簡単には考えへん方がいい。

 

べんぴ先生

あとは何度も説明しているけど電解質(ミネラル)バランスが崩れると便秘になりやすいんや。担癌患者さんは結構崩れることが多いよ。これも癌の種類によるんやけどね。

 

ガンコちゃん

こんな背景があってやっとお薬という感じですかね?

 

べんぴ先生

そや。こんだけ背景があって、ここから抗がん剤をスタートするということや。なかなか手強いやろ?

しかもこのお薬が、抗がん剤と吐き気止めだけやったらまだええんやけど、例えば痛みがあって麻薬を一緒に飲んでいるとか、痛みや精神的な辛さに対して抗うつ薬を飲んでいるとか、貧血があって鉄剤を飲んでいるとか、むくみがひどくて利尿薬を飲んでいるとか・・・。

クスリだけでもたくさーん問題点があることが多いんや。

 

べんぴ先生

それを踏まえて次に行こう。はじめに言ったように「抗がん剤」と「吐き気止め」に分けて説明するよ。

抗がん剤ではほとんどの場合吐き気止めを一緒に使うんや。抗がん剤はそのまま使ったらほぼ吐き気が出てしまう。テレビとかで抗がん剤使ってる主人公のお母さんとかが吐いてるイメージない?

 

ガンコちゃん

ありますね。「抗がん剤=めっちゃ苦しい」っていうイメージしかないです。

 

べんぴ先生

確かに吐き気止めをしっかりあらかじめ使っても吐き気が出てしまう患者さんはいらっしゃる。

そやけど最近は色んな種類の吐き気止めが出ていて、吐き気が全くでないという患者さんもいらっしゃる。

 

べんぴ先生

日本癌治療学会が「制吐薬適正使用ガイドライン」というものを出していて、抗がん剤の種類ごとにどれが吐き気を引き起こしやすいのかっていうのをわかりやすく書いてくれてあるんや。

吐き気を引き起こすリスクが高度、中等度、低度に分けて考えて、この3つによって使う吐き気止めも変えていくということやね。

 

ガンコちゃん

結構しっかり考えてるんですね。

 

べんぴ先生

そや。かなり真剣に考えている。というのも吐き気っていうのはめちゃくちゃ辛いから、一回味わってしまうとトラウマになってしまって二度と抗がん剤をやりたくなくなってしまうんや。そやから始めからめちゃくちゃ気を使うんや。

この吐き気止めの薬の中で一番便秘を引き起こすのが5-HT3受容体拮抗薬というものや。5-HTとはセロトニンという物質のことやね。

セロトニンは腸管の動きを良くする働きがあるから、これを拮抗してしまう、つまり邪魔されてうまく腸が動かなくなるってことや。具体的にはグラニセトロン(カイトリル®)、オンダンセトロン(ゾフラン®)、パロノセトロン(アロキシ®)などがあるんや。

 

ガンコちゃん

なるほどなるほど。

 

べんぴ先生

あとは吐き気止めでステロイド(リンデロンやデカドロン)を使うことも多くて、ステロイドが便秘を引き起こすこともあるんや。

次は抗がん剤について説明しよう。

 

ガンコちゃん

ここまで来てやっと抗がん剤ですもんね。奥が深いわ・・・。

 

べんぴ先生

抗がん剤はほとんどが多少なりとも消化管に影響を与えると言っていいやろね。つまり便秘とか下痢のことや。

僕が患者さんに抗がん剤について説明するときに良く使うのが「抗がん剤の副作用は人の顔と同じように、目があって鼻があってという共通したものと、目がたれ目とかつり上がってるとか、鼻が低い高いというように個性もある。」というものや。

共通の副作用には皮膚の障害、脱毛、消化管の障害、血球の障害(白血球が減るとか貧血になるとか)なんかがあって、個性的な副作用というのは例えば涙が出にくくなるとか妊娠しにくくなるとかそういったものや。

 

べんぴ先生

みんな共通して多少なりとも便秘や下痢になるんやけど、その中でも便秘を引き起こしやすいと言われる抗がん剤が以下のものや。

 

 

 

 

ガンコちゃん

思ったより少ないですね。どういった理由で便秘を引き起こすんですか?

 

 

べんぴ先生

これは末梢神経障害によるところが大きいと言われているね。

つまりは腸に作用している神経そのものに、抗がん剤がダメージを与えることで腸がうまく動かなくなるというイメージや。

末梢神経障害を引き起こす薬にはこれらに加えてオキサリプラチンなどのプラチナ系薬剤(プラチナとは白金という意味です。)やボルテゾミブ(多発性骨髄腫などで使われます。)という薬が有名や。

 

べんぴ先生

末梢神経障害と一言で言っても、どの神経を障害するかによって副作用というのは変わってくる。

つまり運動神経(運動を司る神経。動かしにくいなど。)なのか感覚神経(感覚を司る神経。感覚としてのしびれなど。)なのか、はたまた自律神経(便秘など)なのかという話や。

 

ガンコちゃん

便秘に関わるのは自律神経ですよね?

 

べんぴ先生

そや。例えばプラチナ系の薬は感覚神経を障害することが多い。オキサリプラチンはよく僕も使う薬やけど、間違いなくしびれは出てくるよ。ビンカアルカロイドとタキサン系の薬は自律神経を障害しうるということやね。

 

ガンコちゃん

これらの薬を使って便秘になってしまったらどうしたらええんですか?止めるわけにもいかんやろし。

 

べんぴ先生

痛いところをついてくるやんか。全くその通りで薬が効いているのに便秘やから止めるってのは避けたいところや。効いている薬は続けたいからな。治療は「その時々による」と答えるしかない。

 

ガンコちゃん

逃げましたね、先生!!

 

べんぴ先生

むむむ。もちろんやれることはある。

なるべく食物繊維をとって頂くとか、飲めるのであれば水分をなるべく飲んで頂くとか、出来るだけ運動(軽い運動でOK)して頂くとか。あとはなるべくリラックス出来るような環境をご自宅で整えて頂いたり。

 

ガンコちゃん

医者がやること全然ないですやん!

 

べんぴ先生

医者がやるのは、あらゆる便秘薬を駆使して患者さんにあったものを選択することかな。刺激性の下剤は習慣性があるから普段はあまりお勧めしないが、この時ばっかりは毎日飲んで頂くことも多いわ。

どうしても便秘のために日常生活の質が落ちてしまって我慢できない場合は、抗がん剤の量を減らしたり、変更するということになる。ここは「患者さんと医者の相談」が必要や。

 

ガンコちゃん

なかなかうまくいかないもんですねえ。いい治療法があればいいのに。

 

べんぴ先生

今はいい便秘薬も出てきているから昔よりは選択肢が広がっているのは確かや。

今日はこのくらいにしよう。

ガンコちゃん

はーい。

ABOUT ME
大北 宗由
大北 宗由
現役の消化器内科医師です。現在愛知国際病院で勤務しております。 便秘・下痢に関する正しい知識を広めるために日々ブログを書いています。 日本消化器病学会専門医・日本総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医