まずはじめに。抗がん剤は患者さんというのはもちろん体のどこかに癌がある患者さんに対して使うんやけれども、担癌患者さん(癌を患っている患者さんのこと。たんがんと読みます)はものすごく便秘を起こしやすい状況にあるということを理解する必要があるんや。

その上抗がん剤を始める精神的なストレスというのは、おそらく人生で味わったことのないほどのものやないかと思う。
そんな時にどんどん運動して食事をしっかりとって、というのはよほどのメンタリティーがない限り無理やろな。僕なら無理や。
病気そのものによっても運動量や食事量も減ってしまうしな。
「病気そのもの」に関して話すと、胃ガンとか大腸ガンとか消化管にできる癌が便秘を引き起こしやすいっていうのは簡単にわかるやろ?
それだけじゃなくて腹膜転移になっていて大腸が締め付けられると便も出にくくなる。ひどい場合やと腸閉塞になるわ。
あとは脊髄に腫瘍ができると膀胱直腸障害(ぼうこうちょくちょうしょうがい)になることがある。尿も便もうまく出せなくなるという意味や。
腸閉塞が原因となると何らかの処置を必要とすることが多いからね。
あとは大きい便が硬くなりすぎて直腸に詰まってしまう患者さんがおられる。その時は意外と患者さんは「下痢で困ります。」と言われるんや。これは溢流性下痢といって体の正常な反応なんや。どうにかして便を体から出そうとして便が水っぽくなるんや。
この硬い便を浣腸やら摘便(指で直接便を掻き出すこと。)やらでとってあげると普通の便に戻ることが多い印象や。
他にもいろんな理由で癌が便秘を引き起こすんや。簡単には考えへん方がいい。
しかもこのお薬が、抗がん剤と吐き気止めだけやったらまだええんやけど、例えば痛みがあって麻薬を一緒に飲んでいるとか、痛みや精神的な辛さに対して抗うつ薬を飲んでいるとか、貧血があって鉄剤を飲んでいるとか、むくみがひどくて利尿薬を飲んでいるとか・・・。
クスリだけでもたくさーん問題点があることが多いんや。
抗がん剤ではほとんどの場合吐き気止めを一緒に使うんや。抗がん剤はそのまま使ったらほぼ吐き気が出てしまう。テレビとかで抗がん剤使ってる主人公のお母さんとかが吐いてるイメージない?
そやけど最近は色んな種類の吐き気止めが出ていて、吐き気が全くでないという患者さんもいらっしゃる。
吐き気を引き起こすリスクが高度、中等度、低度に分けて考えて、この3つによって使う吐き気止めも変えていくということやね。
この吐き気止めの薬の中で一番便秘を引き起こすのが5-HT3受容体拮抗薬というものや。5-HTとはセロトニンという物質のことやね。
セロトニンは腸管の動きを良くする働きがあるから、これを拮抗してしまう、つまり邪魔されてうまく腸が動かなくなるってことや。具体的にはグラニセトロン(カイトリル®)、オンダンセトロン(ゾフラン®)、パロノセトロン(アロキシ®)などがあるんや。
次は抗がん剤について説明しよう。
僕が患者さんに抗がん剤について説明するときに良く使うのが「抗がん剤の副作用は人の顔と同じように、目があって鼻があってという共通したものと、目がたれ目とかつり上がってるとか、鼻が低い高いというように個性もある。」というものや。
共通の副作用には皮膚の障害、脱毛、消化管の障害、血球の障害(白血球が減るとか貧血になるとか)なんかがあって、個性的な副作用というのは例えば涙が出にくくなるとか妊娠しにくくなるとかそういったものや。

つまりは腸に作用している神経そのものに、抗がん剤がダメージを与えることで腸がうまく動かなくなるというイメージや。
末梢神経障害を引き起こす薬にはこれらに加えてオキサリプラチンなどのプラチナ系薬剤(プラチナとは白金という意味です。)やボルテゾミブ(多発性骨髄腫などで使われます。)という薬が有名や。
つまり運動神経(運動を司る神経。動かしにくいなど。)なのか感覚神経(感覚を司る神経。感覚としてのしびれなど。)なのか、はたまた自律神経(便秘など)なのかという話や。
なるべく食物繊維をとって頂くとか、飲めるのであれば水分をなるべく飲んで頂くとか、出来るだけ運動(軽い運動でOK)して頂くとか。あとはなるべくリラックス出来るような環境をご自宅で整えて頂いたり。
どうしても便秘のために日常生活の質が落ちてしまって我慢できない場合は、抗がん剤の量を減らしたり、変更するということになる。ここは「患者さんと医者の相談」が必要や。
今日はこのくらいにしよう。