便秘・下痢

麻薬と便秘

べんぴ先生

今回は麻薬について説明してくよ。

ガンコちゃん

麻薬ですか。何や麻薬って聞くと怖い感じしますね。私ら一般人には関係ない気がするんですけど。

 

べんぴ先生

そやな。使っていない人は読み飛ばしてくれて結構や。

まず前提となる知識について説明すると、麻薬はオピオイドと言われることが多い。そして強オピオイドと弱オピオイドに分けられることが多い。文字通り効果が強い、弱いっちゅうことや。

 

 

 

 

ガンコちゃん

これは分かりやすいですね。

 

べんぴ先生

強オピオイドにはモルヒネオキシコドンフェンタニルタペンタドールなんていう薬がある。弱オピオイドにはコデイントラマドールなんかがよく使われる。

強オピオイドは癌を扱う科の先生以外はほとんど使わへんやろし、トラマドールは腰痛に対して整形外科の先生が使うことが多い印象やね。

コデインはガンコな咳に対して使うことがあるね。

 

ガンコちゃん

ふむふむふむ。

 

べんぴ先生

そしてこれらの麻薬(オピオイド)と呼ばれるものはものすっごい高率に便秘を引き起こしてしまうんや。

 

ガンコちゃん

強そうですもんね。ガツンって効きそうですもん。

 

べんぴ先生

そうや。そやから僕らが麻薬を患者さんに処方するときは便秘薬も一緒に始めてもらうんや。これは絶対や。さもなくば後でめちゃくちゃ便秘になって、えらいことになるんや。

 

べんぴ先生

麻薬はオピオイド受容体ってところに作用して鎮痛効果とかを発揮するんやけど、そのオピオイド受容体の中でも特に大事なのはμ受容体と呼ばれるもんや。

これが頭の中だけにあったらええ話やねんけど、実は腸にも結構あるんや。

 

 

ガンコちゃん

おうっ。腸管には悪い方向に作用してしまうってことですね?

 

べんぴ先生

その通り。腸管の「筋層間神経叢」とか「粘膜下神経叢」(要は腸の壁の中にある神経ということです。)にあるμ受容体に作用しちゃうんや。

それによって腸の動きが弱くなったり、腸の分泌液が減ったり、水分を吸収しすぎてしまんや。すると、かなりの便秘になってしまうっていう理屈や。

 

べんぴ先生

本当はμ受容体は副交感神経終末だけやなくて、交感神経終末にも存在するから「腸を動かす」と「腸を止める」の2面性があるんやけどね。

それを言うと難しくなるけど、大局的にみると腸の動きを止めてしまうということやね。

 

ガンコちゃん

またわけのわからんことを。腸が動かなくなる、それでええやないですか!

 

べんぴ先生

ごめんごめん。でもこの考え方はトリメブチン(セレキノン®)という薬を理解するときに非常に重要になるんや。これはまた今度にしよ。

それはさておきμ受容体にはμ1受容体とμ2受容体があるんや。消化管運動に主に関わっているのはμ2受容体と言われている。さっき説明した強オピオイドの中でモルヒネやオキシコドンはμ1、μ2受容体どっちも作用してしまうから強い便秘になるけど、フェンタニルはμ2受容体にはあんまり関与しないから比較的便秘になりにくいんやね。タベンダドールも便秘には比較的なりにくいんや。

 

 

 

ガンコちゃん

今回は難しすぎますわ。

 

べんぴ先生

ちょっと難しすぎたね。簡単に言うと麻薬は便秘が必発。それだけでええよ。便秘対策までやって始めて麻薬を処方したと言えるんや。(本当は吐き気対策も) 

 

ガンコちゃん

便秘対策は、普通の便秘の人と同じでええんですか?

 

べんぴ先生

待ってました!実は最近「麻薬による便秘」のためだけの薬が出たんや。ナルデメジン(スインプロイク®)という薬や。

 

ガンコちゃん

どんな薬なんですか?

 

べんぴ先生

これは末梢性μオピオイド受容体拮抗薬(PAMORA:Peripherally Acting Mu-Opioid Receptor-Antagonist)と言ってな、脳内にあるオピオイドには働きかけずに、腸管みたいな末梢にあるμ受容体だけをブロックするんや。いい発想やね。

 

ガンコちゃん

なんかめっちゃ効きそうですね!

 

べんぴ先生

そや。今後に期待できそうやね。

でも注意点があって、胃腸に腫瘍があると穿孔したり、脳に転移してたり腫瘍があったりすると脳内に薬が入り込んで、麻薬の鎮痛効果が弱くなったりオピオイド離脱症候群になったりする可能性があるみたいや。

 

ガンコちゃん

胃や腸が破れるってことですか?

 

べんぴ先生

「穿孔」は破れるっていう意味であってるよ。胃潰瘍があったり、腫瘍があったり。要は胃腸に病気があると使いにくいってことやね。

消化器内科医にとっては辛い話や。かなり使える状況が限られてしまうから、そこが難点やね。

でもこの薬の発想はすごく好きやけどね。うまいこと使いたいと思っているよ。

 

べんぴ先生

あとは脳内には「血液脳関門」という仕組みがあってそう簡単には血液から脳内に物質が入って行けないようになってるんや。

ナルデメジンも血液脳関門を突破できないような作りにしてくれてあるんやけど、脳腫瘍とか転移があるとその関門が崩れて脳内に薬が入って行ってしまう。

それで麻薬の効果が弱まったり、急に麻薬の効果がプスッと切れることで離脱症状が起きてしまうっていう話やね。

 

べんぴ先生

麻薬を使うときは従来の便秘薬とナルデメジンを使い分ける、場合によって併用することが大事ってことや!

 

ガンコちゃん

わっかりました!

ABOUT ME
大北 宗由
大北 宗由
現役の消化器内科医師です。現在愛知国際病院で勤務しております。 便秘・下痢に関する正しい知識を広めるために日々ブログを書いています。 日本消化器病学会専門医・日本総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医