こんにちは。
今日もぼくが実際に経験した興味深い症例を共有したいと思います。
もちろんプライバシーを考慮し、年齢など細々としたところは多少いじくってあります。
今日の患者さんは1年前くらいから便秘の治療のため、僕の外来にかかっておられる80歳くらいの女性です。
リウマチや慢性心不全という病気で他の病院にかかられています。
1週間前から便が急に出なくなって、浣腸で無理矢理だしていらっしゃったみたいなのですが、どうにもこうにも気持ち悪くなって予約外で受診されました。
もともとひどい便秘で悩んでおり、家の近くのお医者さんにセンノシドという薬を処方してもらっていました。
センノシドは刺激系の下剤で頓服以外では飲んではいけいない薬でしたね。
そのセンノシドを1日4錠くらい飲まれており(多いです)、大腸カメラで粘膜をみると茶色になってしまっているという状況でした。(もともとはピンク色で、茶色になることを偽メラノーシスと言います。)
80歳でも、もう寝たきりで先も長くなさそうな方ならこのまま飲み続けてもよいのかもしれませんが、この方はすごく元気で、おそらく100歳までは生きられるやろうなという方でした。
なので
「このままではまずいですよ。このまま飲みつづけるともっともっと大腸が動かなくなって、便秘がどんどんひどくなります。薬を変更しましょう。」
と説得しました。
マッサージや運動、食事の重要性を理解していただき、まずはこれらを改善してもらいました。
その上で薬を調整。
アミティーザとう薬や大建中湯という漢方薬、ガスコンも体に合わない。
最終的にはガスモチンと酸化マグネシウムの2つだけでセンノシドを一切使わずに便がでるようになっていました。
それが急に1週間前から便がでないとおっしゃる。
うーむ。これは何かあったに違いない。
「最近変わったことありましたか?」
とお聞きしても
「特に何もないよ。」
とのこと。
いやいやそんなことはない!と思い、いろいろ聞き出していくと1週間前に近くの耳鼻科にかかって鼻炎の薬をもらったと。
むむむ。「ちょっとお薬手帳を見せてください。」
なになに・・・ベポタスチン?
ああ。タリオンという抗ヒスタミン薬でした。
抗ヒスタミン薬には第一世代と第二世代があるのですが、第一世代のほうが抗コリン作用が強いので便秘になりやすいのです。(抗コリン薬と便秘を参照してください)
でもタリオンは第二世代なので便秘にはなりにくいはずやけどなあ・・・
でもどう考えても他に何かが起こった様子はないので、こういう時は薬剤性の可能性が高いです。
その理由は3つ。
①まずご高齢であり、代謝は若い人より落ちています。なので普通は副作用がでないような薬でも出たりします。ガスターという胃薬で意識障害になるなんてこともあります。
②抗コリン薬作用が少ないといっても第一世代の抗ヒスタミン薬に比べて少ないだけで、少しはあります。
③もともと重度の便秘であったので、少しの変化でも簡単に便秘になってしまう可能性があります。
僕は今回の一件は薬のせいと考えています。
なので次回には普段通りに戻っているはず。
ちなみにこういう時はセンノシドを飲んでも大丈夫ですよと説明しました。
頓服で飲む分には問題がないことがほとんどなのです。
今回は鼻炎のお薬でしたが、風邪薬で便が全く出なくなることは多々あります。
ちょっとした教訓でした。
答え合わせは次回の外来で。
さてさてどうなってるかなあ。