便秘の診断や治療にバルーンを使う?
こんにちは。
今日は前回のバイオフィードバック療法に引き続き、バルーン(風船)を使った検査や治療について解説していきたいと思います。
お付き合いください。
バルーンて何か特殊な素材でできたものなの?
バルーン検査や訓練で使われるバルーンはものすごく特殊なものなのでしょうか?
実はラテックスの手袋やコンドームを使用して検査や治療を行います。
手袋や医療用のコンドームに空気や水を入れて検査や治療を行うんですねえ。
あとふつうの注射器やチューブがあれば大丈夫です。
なので実はどの病院でもできる検査・治療なのです。
決して特殊な機材や材料が必要なわけではないんですね。
内圧検査やバイオフィードバック療法は特殊な機材が必要なので、
それに比べると安いし、簡単にできるというメリットがあります。
ちなみに、病院間で使う素材が統一されていない
という問題点があります。
手袋を2枚重ねるのか、1枚なのか、コンドームを使うのか
水を入れるのか空気を入れるのか
若干の差が生じてくるので病院ごとにデータをそのまま比べていいのかどうか
と言う問題はありそうです。
ただ、1つの病院の中では毎回同じ方法でやっているはずなので、
病院の中でのデータの比較は問題ないと考えます。
なので直接患者さんに弊害がある、というわけではないですね。
バルーン排出テストとは
バルーン排出テストはお尻にバルーンを入れておき、怒責(息む)によってそのバルーンを出せるかどうかを見るテストです。
具体的には座った状態で、50ccの水もしくは空気の入ったバルーンを出せるかどうかをみます。
この時に大事なことは部屋の中に患者さん一人しかいない状況を作る
ということです。
どういうことかと言うと、
同じ部屋に看護師さんや医者がいると、恥ずかしくて出せない可能性が高くなってしまう
ということです。
そりゃそうですよね。
なので誰にもみられない状況で、怒責(息む)してもらい、バルーンを入れてから5分後に看護師さん、もしくは医者が戻ってきます。
その時にバルーンを出せていたらOKで、出せていなかったら便排出障害ありと診断する
ということです。
ちなみに正常な人でもバルーンを出せない人が一定の割合でいると言われています。
この検査でバルールを出せないからといって、必ずしも異常というわけではないということなんです。
便排出障害において重要な検査が3つあります。(他にもありますが、敢えて3つと言わせてくださいね。)
・デフィコグラフィー
・内圧検査
・バルーン排出テスト
どれも大事な検査ですが、どれか一つで便排出障害を診断するのは難しいと言われています。
バルーン排出テストでバルーンを出せなかったからと言うだけでは、具体的にこんな病気がある、とは言えないですよね。
例えばバルーンを出せなかったからこの患者さんは直腸瘤に違いない
とか。
言えないですよね?
この3つを組み合わせて検査していくのがいいのではないか、と思います。
デフィコグラフィーは実は、エビデンス(科学的根拠)レベルの高い研究が少ないと言われています。それでも、得られる情報量は圧倒的に多いので、便排出障害の分野では重要な検査になっています。
デフィコグラフィーについてご存知ない方は、以下の記事を参考にしてくださいね。
バルーン排出訓練
正確には直腸バルーン排出訓練と言います。
ここでもやはりさっきと同じやり方で、50ccの空気もしくは水をバルーンに入れます。
最初は横向きで寝ながら訓練をします。
ある程度動きがつかめたら、簡易的な便座に座ってもらいます。
便座に座って前かがみになっていただき、排出トレーニングを開始します。
一度お尻をキュッと閉めてから、緩めて出してもらうと良いです。
トレーニングの頻度はだいたい月に1回です。
バイオフィードバック療法と2週間ごとに交互にやることもありますし、同じ日にやったりもします。
これもバイオフィードバック療法と同じでお家で意識しながら排便することがとっても大事なんですね。
学校や塾の勉強も同じですよね?
家での復習が大事なんです。
(ちなみに、バルーンによるバルーン排出訓練もバイオフィードバック療法の一つと考えられます。でも個人的には少しややこしくなってしまうと感じるので、筋電計を使うものをバイオフィードバック療法、バルーンを使うものはバルーン排出訓練と呼びました。)
直腸バルーン感覚検査
バルーンを使ったもう一つの検査方法があります。
先ほどのバルーン排出テストでは
ただバルーンをお尻から出せるかどうかを見る検査でしたね。
そうではなくて直腸バルーン感覚検査は、文字どおり直腸の感覚を調べる検査です。
バルーンを凹ました状態から徐々に大きくしていき、
はじめにバルーンの圧を感じだ時点の用量を感覚発現容量
便意を感じた時点を便意発現容量
我慢できなくなった時点を直腸最大耐容量
として記録します。
これは実は便失禁の患者さんには大事な検査です。
便意を感じた時のバルーンが小さいということは、直腸の感覚が過敏になっている証拠です。
逆に便意を感じた時にバルーンが大きいということは、直腸の感覚が鈍くなっている証拠になります。
便失禁には直腸が過敏になって我慢できなくなる切迫性便失禁と
直腸の感覚が鈍くなってじわじわ漏れ出る漏出性便失禁があります。
この直腸バルーン感覚検査は便失禁の診断においてはとっても大事なんですね。
ここまでくるとお分かりかと思いますが、この理論を使えば診断だけでなく訓練もできます。
切迫性便失禁の方は、バルーンがすごく小さくても便意が出てしまいます。
この大きさなら大丈夫ということを理解して頂き、我慢する練習をします。
そして徐々にバルーンを大きくして行き、50ccとか100ccでも耐えられるようにトレーニングしていく、という方法があります。
逆に漏出性便失禁の方には
大きなバルーンから始めて徐々にバルーンを小さくしていきます。
直腸の感覚を敏感にしていくイメージですね。
切迫性便失禁とは真逆のやり方です。
バルーン検査・治療の問題点
先ほども少し話しましたが、使われるバルーンの素材やサイズ、形などによって測定値が変化するという問題があります。
それだけではなくて、どれくらいの速さで空気や水を入れるかによっても若干結果が変わってくるでしょうし、挿入したバルーンの位置によっても結果は変わってきます。
簡単にできる検査ではあるんですが、この辺りが弱点ですね。
検査結果の解釈が難しいですが、それでもある程度は患者さんの症状と相関すると言われています。
訓練によって患者さんに自信をつけてもらうことが本来の目的なので、毎回なるべく同じ方法で行い、数値の変化や排出できたかどうかなど実感してもらえるといいんじゃないかな、と思います。
まとめ
ご理解いただけましたか?
バルーンなんてかっこ良く言っていますが、実際ただの風船です。
ただの風船なんですが、使い方によっては検査にもなるし、治療にもなるんですね。
バルーン排出テストは便排出障害の診断の3本の矢のうちの1本です。
大事な検査ですので覚えておきましょうね。
ではでは〜