便秘・下痢

便秘と下痢を繰り返す人の原因は何が考えられる?

便秘と下痢を繰り返す人の原因は何が考えられる?

こんにちは。

先日すごく教訓になった症例を経験しましたので、みなさんと共有させていただきたいと思います。

お付き合いくださいね。

便秘と下痢を繰り返すときにもっとも多い原因は?

 

ズバリもっとも多い原因は腸の形の異常だと思います。

 

難しい言葉で言うと腸管形態異常ですね。

 

腸の形がねじれていたり、落下腸などのパターンがあります。

 

落下腸やねじれ腸については以下の記事でまとめていますので参考にしてくださいね。

 

つまり、腸の中を便がスムーズに通れないことでかたい便の塊ができてしまいます。

 

便の塊があるとうまく便がお尻から出ていけなくなるので、まずは便秘になるのですね。

 

ただ、ある程度便秘が続くと、人間の体には防衛本能が働きます。

 

何とか便の塊で塞がれた腸の隙間を通ってお尻から出て行こうとするんですね。

 

その隙間は狭いので、水分として出て行くと効率がいいんです。

 

つまり硬い便よりも口側の腸管の中身は下痢に変わるのです。

 

 

なので、数日間便秘が続き、何かの加減で硬い便がスポっと出るとそのあと下痢がばっと出るんです。

 

これが便秘と下痢を繰り返す一番多い原因なのではないかと僕は思います。

 

この考え方は久里浜医療センターの水上先生の考え方であり、僕も実際に診療を行っていてかなり多い印象を受けています。

 

先日経験した症例

 

30台の女性で以前から便秘と下痢を繰り返すことが多く、悩まれていたそうです。

近くのクリニックを受診され、下痢型過敏性腸症候群と診断されました。

イリボーという薬を処方されずっと飲んでいたのですが、全く改善しないので受診されました。

 

ちなみにイリボーという薬はセロトニンと言う物質を抑えることで腸の動きを抑える方向に働くんですね。

セロトニンは腸を動かす方向に働く物質ですので、セロトニンを抑えることで腸が動きすぎて調子を崩している方には効果があるのです。

 

本当の下痢型IBSであればイリボーは少しは効果があることが多いので、この時点でこの方は純粋な下痢型IBSではないだろうな、と言う印象です。

 

症状も便秘と下痢を繰り返していますしね。

 

よく聞くとわかる話です。

 

よくよく聞いてみると食後に下痢になる時が多いということでした。

しかし朝食後にはあまりならないと。

 

ここで胆汁性下痢の可能性は少しあるかな、と考えました。

 

胆汁性下痢は見過ごされていることがもっとも多い下痢の原因と言っても良いでしょう。

ちなみに胆汁性下痢に関しては以下の記事にまとめてありますので参考にしてくださいね。

 

ただ、胆汁性下痢であれば朝食後にもっとも多いですし、便秘と下痢を繰り返すことも考えにくいです。

 

この時点で原点に戻らなければいけなかったのかもしれませんが、胆汁性下痢の要素がありそうだと考え、コレバインという薬を処方しました。(コレバインは胆汁性下痢の特効薬です。)

あとは、腹痛も訴えられていたのでリンゼスという薬も一緒に処方しました。

リンゼスについては以下の記事を参考にしてくださいね。

ただ、便秘がひどくなる時はご自身の判断でやめていただき、次の予約した外来の日時まで待たずに来院してくださいと説明しました。

 

患者さんはどうなったか?

 

1週間後くらいに便秘が続いてお腹が痛い、ということで夜間の救急外来に受診されました。

 

救急の先生がお腹のCTを撮ってくれたのですが、見てみると硬そうな大きな便が直腸に詰まっていたのです。

 

案の定、浣腸してみるとすっきりされ、しかしやはり下痢がたくさん出たようです。

 

その日は入院などにはならず帰宅することができました。

 

僕の判断が正しくなかったんですね。

やはり胆汁性下痢としては典型的ではなかったのでコレバインなど処方するべきではなかったのです。

 

申し訳ないことをしてしまいました。

 

 

もちろんこの時点でコレバインは中止していただき、次の外来までお薬は何も飲まないようにしていただくこととしました。

次の一手は?

 

イリボーもやめた。

コレバインもやめた。

リンゼスもやめた。

 

じゃあ何もしてないじゃないか

ということになりますよね?

 

もちろんこのままでは終われないので、やはり原点に帰って腸の形がおかしいのではないかと疑いました。

 

外来でお腹のレントゲンを撮影してみると・・・

 

やっぱり。

 

総腸間膜症(落下腸)でした。

 

どうりで。

 

 

食後の下痢という胆汁性下痢のキーワードに引っ張られずに、初めからレントゲンくらい撮影しておくべきだったのです。

 

がっくり。

 

あ、レントゲンの重要性については以下の記事でまとめてありますので参考にしてくださいね。

 

そこで酸化マグネシウムを処方し、マッサージのやり方について説明しました。

マッサージはなるべく起床時と就寝時の2回行っていただようお伝えしました。

 

マグネシウムとマッサージのみで改善したのか?

 

次の外来で効果のほどをお聞きすると・・・

 

普通の便がしっかり出るようになり、お腹の痛みも治ったとのことでした。

たまに下痢気味のこともありましたが8割くらいは通常の便が出たとのことです。

 

やっぱりこの方は下痢型IBSではなく、腸の形の異常であった可能性が高いと思います。

というのも下痢型IBSであれば、マグネシウムなど内服した日にはさらにひどい下痢に悩まされるに決まっているからです。

 

酸化マグネシウムというものすごく安い薬、何なら薬局に普通に売っている薬とマッサージのみというものすごく費用対効果に優れた治療で改善することができたんですね。

 

もちろんこれから症状が悪化してくることも考えられるので、安易にこれで終わりとはいきませんが、ひとまずずっと悩んでいた症状から解放されたわけです。

 

これからもマッサージを続けていただき、何なら一生便のことで悩まされずに生活していただきたいものです。

 

 

ちなみに患者さんの希望もあり、後日大腸カメラを行いました。

見える範囲で小腸まで観察しましたが、異常所見は認めませんでした。

 

下痢も改善していたので、特に組織検査などは行わず終了しております。

まとめ

今回は本当に勉強させていただきました。

やはり初診時にレントゲンは撮影しておくべきでしたし、胆汁性下痢には典型的ではなかったのに「食後に下痢が出やすい」というエピソードに引っ張られてしまったのが反省点です。

 

結果、救急外来の先生にまでお世話になってしまうなんて・・・

 

本当に患者さんには申し訳ないですが、次に繋げていきたいと思います。

 

今日は以上です。

お疲れ様でした。

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ABOUT ME
大北 宗由
大北 宗由
現役の消化器内科医師です。現在愛知国際病院で勤務しております。 便秘・下痢に関する正しい知識を広めるために日々ブログを書いています。 日本消化器病学会専門医・日本総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医