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大腸癌の内視鏡手術(ESD)についてわかりやすく説明してみる!
みなさんこんにちは。
べんぴ先生です。
大腸癌シリーズの続きです。今日は内視鏡手術についてわかりやすく説明してみます。
内視鏡手術ってどんなの?
そもそも
日帰りポリープ切除治療も立派な手術であることは前回説明しました。
ポリペクトミーやEMR(内視鏡的粘膜切除術)といった、スネア(金属の輪っか)で切除するものは、写真を用いて前回説明していますのでそちらを参考にしてください。
みなさんESDという名前はご存知ですか?
ESD=Endoscopic Submucosal Disection
日本語では内視鏡的粘膜下層剥離術と言います。
略してイーエスディーと呼びます。
消化器内科医が行う大腸カメラ(胃の場合は胃カメラ)による手術ですね。
つまりお腹を切らずに癌が治せるんです!
お腹に穴を開けたり切らなくて良いというのは本当に魅力的です。
体に対する侵襲が少ないんですね。医学的にいうと低侵襲治療です。
すべての大腸癌で内視鏡手術ができれば良いのですが、そうはいきません。
なぜなら
リンパ節転移
というものがあるからです。
大腸カメラは大腸の中は見えますが、お腹の中は見えないですよね?
見えているものだけ(つまり大腸腫瘍)治せたとしても、見えないところ(お腹のリンパ節)に病気が広がっていたとしたら、それこそ何のために治療したかわからなくなってしまいます。
言い換えると
内視鏡手術ができるのはリンパ節転移のほとんどない腫瘍だけ
ということになります。
まずは見た目が大事です。
簡単に言うと腫瘍が悪い顔をしているのは、良い顔をしているのかということです。
・・・何じゃそれ。
いや、あながち間違っていないんです。
内視鏡で腫瘍を観察してある程度予測できるんですね。
何を予測するかというと深達度です。
お花でいうところの根っこの深さです。
要するに根っこが短いものはリンパ節転移のリスクも低いわけです。
逆に屋久島の杉のような木を想像してください。
根っこはとてつもなく深そうですよね?(行ったことはありません。)
たぶん屋久島の杉の木くらいになるとリンパ節転移してますね。リンパ節転移どころの騒ぎではなく、遠隔転移もしているでしょうね。
後はお腹のCTを撮影して実際にリンパ節転移や遠隔転移がないかどうか確認します。
つまり内視鏡所見とお腹のCTでESDできるかどうかを判断します。
大腸カメラとお腹のCTでESDできるかどうか判断する
CTはできれば造影CTが良いですね。
つまりCTを撮影する際に造影剤と呼ばれるものを血管に打ち込んで行います。
そうすることでリンパ節転移や遠隔転移が発見しやすくなるんですね。
ちなみに厳密なESDの適応基準はこちらです。
・粘膜内癌・粘膜下層への軽度浸潤癌と予想される
・大きさは問わない
・肉眼型は問わない
簡単に説明しましょう。
粘膜内癌、粘膜下層への軽度浸潤癌ということは、
早期癌の中でも根っこが短めのもの
と考えてください。
大きさは問わない
これは超重要ですね。
みなさん早期癌とか内視鏡治療というと小さなものを想像しませんか?
もちろん小ぶりなものもあるのですが、6cmくらいあっても病変によっては内視鏡で治療できるということです。
以前は5cm未満という縛りがありましたが、今は全くなくなりました。
そうは言ってもやはり大きなものは根っこが深いものが多いので、あくまでも術前にしっかりと深達度診断を行うことが重要です。
肉眼型は問わないということは、平べったいものでもぽっこりしたものでも良いということですね。
実際にESD写真を見てみよう!
病変はこのように平べったい形をしていました。

まず病変の下の粘膜下層というところに特殊な液を打ち込みます。


この白い棒は内視鏡用に作られたナイフです。こんな風に熱を通して切除していきます。

血管が見えますか?この血管をしっかり目視しながら切除していきます。
ポリペクトミーのようにスネア(金属の輪っか)で一括切除しないので、むしろ慣れてくると安全な手術なんですね。

こんな風に時間が経つと青い液体が吸収されてなくなってしまします。今見えている白い組織は筋層です。ここを間違って切除した瞬間に穿孔します。

こんな風に周囲を全部切開しました。大腸ESDでは全周切開しないことが多いですが、それは病変によりけりです。この辺りはみなさんにとってはあまり重要ではないので聞き流してくださいね。

徐々に中に向かって切除を進めます。

グネグネした金属が出てきましたね。
これはクリップで引っ張ったんです。
切除しやすくしたんですね。
これは最近よく使用するのですが、近くの粘膜にももう1個クリップをかけて病変と引っ張り合うんです。
外科の手術をみるとわかるんですが、手術で切除していくときにはカウンタートラクションが必要なんです。要するに切る部分にある程度の緊張をかけてあげる必要があるんですね。
このクリップを使うことでカウンタートラクションをかけることができるんです。

ここからはスムーズに切除することができました。



最後の一筋です。

しっかりと切除することができました。

最後に止血剤を撒いて終了です。

これが切除した検体です。
このようにESDは難易度が高いのですが、血管など注意すべきものがしっかりと視認できて安全性が高い手術なんですね。
大きくても一括切除(要するに分割しないということです)できることがメリットです。
ESDの合併症は?
鎮静剤の合併症など細かいことを言い出すと本題からそれてしまうのでやめておきますね。
一番多いのは出血と穿孔ですね。
切除後にしっかりと再出血予防のため処置を行います。
それでも術後出血するようであれば再度大腸カメラ検査を行い、必要があればクリッピングなどの処置を行います。
大出血の経験はありませんが、もし内視鏡で止血できないような事態になれば手術で腸管を切除することになると思います。
むしろESDで最も注意すべきは穿孔ですね。
大腸の壁は本当に薄く、数mm程度と言われています。そもそもESDは筋層のわずかに上の層を切除していくので、常に穿孔のリスクが付きまといます。
ただ、もしも術中に穿孔したとしてもその場で閉じられることが多いので、そこまで問題にならないことが多いと思います。
ですが、後日徐々に傷口が広がって穿孔する場合があるので(後穿孔)その場合は開腹手術や腹腔鏡手術が必要になることがあります。
内視鏡で取り切れたと思ったらおしまい?
実はESDで完全に切除できたと思っても顕微鏡で組織を確認する必要があります。
例えば病変の根っこが粘膜の中でとどまっていればまずOKです。これを粘膜内癌と言います。
粘膜内癌はリンパ節転移の可能性がまずないんですね。
そのため術後のフォローアップでもお腹のCTは必要ないと言われています。1年後やその後も定期的に内視鏡検査をすればOKです。
逆に
根っこが粘膜よりもさらに深い粘膜下層に及んでいる時は注意が必要です。
次の4つの因子のうち一つでも認めれば追加切除が勧められます。
つまり腹腔鏡手術や場所によっては開腹手術が勧められるということです。
せっかく内視鏡手術を頑張ったのに、効果的ではなかったということですね。
・粘膜下層へ1000μm以上浸潤(根っこが深い)
・血管やリンパ管へ浸潤
・組織型が悪いもの(低分化型腺癌・印環細胞癌・粘液癌)
・浸潤先進部の簇出
そうなんです。必ず追加切除を行わなければならないわけではありません。
例えば最近この4つの中で注目されている因子は根っこの深さです。
粘膜下層へ1000μm以上浸潤していたとしてもリンパ節転移のリスクは12.5%くらいです。
つまり9割はリンパ節転移していないわけです。
この1割をどう捉えるかは人それぞれ価値観の問題です。
すべての人が追加切除を受けなければならないというわけではないんです。
例えば90歳であればそのまま様子を見るという選択肢もありでしょうし。
最終的には患者さんと医者の話し合いで決めていきます。
しかし一つ覚えておいていただきたいのは、例えばこの4つの因子の一つ以上を保因しているけれども追加切除をしない決断をしたとしましょう。
その後リンパ節転移が発覚したとします。
その場合の手術(サルベージ手術といいます)は効果的ではないことが多いです。
つまり追加切除を行うのであればなるべく早めに行うのが良い
ということですね。
追加切除を行うのであれば、早めに行うべき
大腸ESDに関する僕の考え
実際に僕も大腸ESDを行いますし、市中病院で働いている消化器内科の先生であれば、ある程度の年次になればほとんどの先生が経験するものです。
ただ、大腸ESDに限らず難易度のある程度高い手技・手術の場合は、ハイボリュームセンターに症例を集めるのが良いと僕は思います。
ハイボリュームセンターとは例えば癌センターや大学病院のような高度な医療施設ですね。
手術というのは腕が大事なんですね。
腕が大事なんですけど、同じくらい大切なのは症例数だと思うんです。
例えば膵臓癌の手術を月に1回しか行わない医師と週に2回行っている医師のどちらに手術してもらいたいですか?
仮に2人の医師が同じ才能を持っていたとしても、その差は歴然でしょう。
経験の数が大事なのは直感的にもお分かりかと思います。
これからの時代、おそらくそのような方針になってくると思います。
市中病院は急性期疾患に対して対応する。
がんセンターや大学病院は難しい癌の治療などに対応する。
患者さんにとってはこれが理想的だと思います。(現実には色々な問題がありますし、この意見に反対する医師もたくさんいらっしゃるでしょう)
なので、僕は患者さんががんセンターにかかりたいといえば快くご紹介します。(場合によっては顔色を変える医師もいらっしゃるでしょうが。)
話し出すと長くなりますが
これからは5G通信になり、触覚伝送も可能になるようです。
これによってそう遠くない未来に遠隔手術も可能になるでしょう。
つまり名医の手術を受けるために東京やアメリカに行く必要がなくなってくる可能性があるんですね。(医療費や保険の問題はあるのですぐに現実化はされないと思いますが)
患者さんにとって良い方向に医療が大きく変わるのは間違いありません。
何の話かわからなくなってきましたが、要するに大腸ESDを受ける時もしっかりと考えてから受けるのが良いと思います。
まとめ
今日は大腸ESDについて解説しました。
参考になりましたでしょうか?
まだまだ大腸癌についてはいろいろお話しすることが残っていますので適宜取り上げていきますね。
今日はお疲れ様でした。