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大腸癌ステージ4に行う抗がん剤治療をわかりやすく解説してみる!③
こんにちは、べんぴ先生です。
今日も大腸癌の抗がん剤治療について解説していきたいと思います。
お付き合いくださいね。
前回までにオキサリプラチンとイリノテカンの特徴、使い分けなどについて説明しました。
今回はオキサリプラチンのしびれやCVポートの必要性について解説させていただきたいと思います。
今までのブログを読んでおられない方はこちらを先に読んでくださいね。
オキサリプラチンのしびれ
今日はオキサリプラチンのしびれについて解説させていただきます。
当ブログではすでに何度も出てきましたね?
まずは簡単にオキサリプラチンのしびれの特徴について解説し、そのあと対処法についてお話しさせていただきたいと思います。
オキサリプラチンによるしびれの特徴
実はオキサリプラチンのしびれには2種類あります。
それはオキサリプラチンを点滴したあとに早期に現れる急性の末梢神経障害と、蓄積性の末梢神経障害の2つです。
オキサリプラチンの末梢神経障害には急性と蓄積性の2種類がある
そもそも末梢神経障害って?
抗がん剤による神経障害にはいろんな種類があります。
大まかに言うと
・中枢神経障害
・末梢神経障害
・自律神経障害
中枢神経障害というのは脳とか脊髄とかに障害が出ることです。
痙攣したりとか麻痺が出て手足が動かなくなったりなど、派手な症状が出ます。
末梢神経というのは脊髄よりも抹消(つまり手足の先っぽに向けて)のことです。
末梢神経に障害が出ると手足のしびれや動きにくさなどが出ます。
自律神経障害は変な汗がたくさん出たりだとか、立った時にふらっとして倒れてしまう(起立性低血圧)などの症状が出ます。
オキサリプラチンの神経障害は末梢性のものなんですね。
使う抗がん剤の種類によってどの神経がメインで犯されるかは変わってくるというわけです。
オキサリプラチンは末梢性神経障害を起こす
ここまではよろしいでしょうか?
もう少し踏み込んでいきますね。
末梢神経は大きく分けると2種類あります。
運動神経と感覚神経。
運動神経というのは運動を司る神経ですね。そのままです。
指などを動かす神経ですね。
感覚神経というのは感覚を司る神経です。
痛みや温度などを感じる神経ということです。
オキサリプラチンによる末梢神経障害では運動神経が犯されることはあまりなくて、ほとんどが感覚神経がやられてしまいます。
オキサリプラチンの末梢神経障害では、感覚がやられてしまう。
感覚がやられてしまうとどんな症状が出るかお分りでしょうか?
例えば
手足が痺れるという感覚はもちろん感じます。
他にはボタンがかけにくくなる、字が書きにくくなる、歩いている時に足元がおぼつかなくなるなどの症状があります。
そして、はじめにお伝えしましたように、オキサリプラチンのしびれには急性と蓄積性の2種類があるんですね。
急性というのは投与後からで始める人もいますし、少ししてから出現する人もおられますが、1日くらい経ってから出現して、数日以内に引いていくことが多いです。
手足のしびれがほとんどですが、たまに喉の違和感が出る人がいらっしゃいます。喉が締め付けられる感覚が出るかもしれませんね。
ただ、まず自然に改善するのでそこまで問題視する必要はないかと思います。
急性の神経障害は自然に改善する
一番大事なのは蓄積性の神経障害です。
つまり何度も何度もオキサリプラチンを投薬しているうちに、どんどん神経にダメージがたまっていくんですね。
どれくらいの量を越えればしびれの症状が出てくるか、というのはだいたい決まっているんですね。
FOLFOXというレジメンでは7,8回くらいオキサリプラチンを投与すると、しびれが出現してくると言われています。
SOXというレジメンでは5,6回くらい投与すると出現してくると言われています。
FOLFOXは1クールが2週間、SOXは1クールが3週間なので、だいたい16週間くらい、つまり4ヶ月くらい続けると出てくるんです。
オキサリプラチンの蓄積性の末梢神経障害は4ヶ月くらいで出てくる
この蓄積性の障害が厄介なんですね。
ひどくならないうちにオキサリプラチンを休薬すれば、徐々に改善していくこともありますが(それでも半年くらいかかったりする)、一度ひどくなってしまうと中々元には戻りません。
前回もお伝えしましたが、ファーストラインでオキサリプラチンを使用してひどいしびれが残ってしまうと、ずっと苦しまされることになります。
特にセカンドライン以降で、手足が荒れるような抗がん剤・分子標的薬を使うことになるとさらに症状が悪化する可能性もあるんですね。
このような理由で、なんとかしびれを最小限に抑える努力が必要ということです。
オキサリプラチンを使うということはしびれと戦うということです。
オキサリプラチンのしびれ対策
ここではしびれが出ない・もしくは最小限に抑える工夫と、出てしまった時の対策について解説したいと思います。
しびれを最小限に抑える工夫
これには諸説あるのですが、現状わかっている中で一番効果的な方法をお伝えします。
それは
ある程度の回数オキサリプラチンを投薬したら、しびれが出ていなくても一旦ストップする。
そしてしばらくしたらまた再開するという方法です。
具体的にはFOLFOXというレジメンでは6回投薬したら、自動的にストップするという方法が勧められます。
そのあと6ヶ月はオキサリプラチンを抜いてしまいます。
その後またオキサリプラチンを再開するというやり方ですね。
つまりオキサリプラチンを一旦stopしてから再度Goするということですね。
これをstop and goと呼びます。
stop and goという手段をとってもしびれが出てしまう時はあります。でもずっと何も考えずに続けていくよりは有意にしびれは少なくなると報告されています。
現状ではこの方法が最も確実にしびれを減らす方法だと言われています。
stop and goが最も確実にしびれを減らす方法
これも一種のstop and goと言えるかもしれませんが、
しびれが出てしまった時に、症状が軽いうちから一旦オキサリプラチンを休薬します。
これは計画的ではなく場当たり的な対応ですね。
そして例えばFOLFOXであれば2週間に一度患者さんが来院される。来院されるたびに毎回お聞きするんです。
「今日はしびれはどうですか?」と。
そして「今日は大丈夫です。」とおっしゃればオキサリプラチンを投薬する。
逆に「今日は悪いですね。」とおっしゃれば投薬しない。
これも良いと思います。
他には減量するという方法もあります。
オキサリプラチンだけ80%の量で投薬を続けようとか。
ただ、これもstop and goには劣る方法と言われていますね。
stop and goがたぶん一番優れている
もちろん日頃から手足には負荷をかけないようにするだとか、手袋靴下をしっかり着用して革靴などははかない、長時間の運動は避けるなどの工夫が必要なのは言うまでもありません。
しびれが出てしまった時の対処法
一度ひどくなってしまったあとの対処法ですね。
そうなんです。一度ひどくなってしまうとほとんど治療法がないんですね。
非常に言いにくいことです。
今までにいろいろな薬が試されました。
しかし有効な薬は実は1種類しかありません。
その薬はデュロキセチンという薬です。
これが一般名で、商品名はサインバルタです。
もともと抗鬱薬(うつの薬)として発売されたものなのですが、末梢神経障害にも効果を発揮することが知られています。
ただ、しびれ症状の全てを改善してくれる薬とは言えないです。
あくまでもしびれを緩和してくれる薬ですね。
しびれに有効な薬はサインバルタのみ。しかも効果は限定的。
しびれに効くのはサインバルタのみと言いました。
言い換えると他の薬には全くエビデンス(科学的根拠)がありません。
よく使われるのが牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)と呼ばれる漢方薬や他の抗鬱薬ですね。
これらにはエビデンスがありませんので注意が必要です。
たまにペインクリニックなどの先生がリリカという薬をよく処方されているのをお見かけしますが、しっかりとしたエビデンスがないのでやめておいたほうが良いです。
リリカという薬は最近よく使われるのですが、めまいやふらつきの副作用が結構強く出るんですね。
効果があるとわかっていればそのような副作用も許容されますが、しっかりした科学的根拠がない以上は使わないほうが良いと思います。