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CVポートって何やったっけ?

以前からファーストラインの治療、つまり一番はじめに行うレジメンが決まれば、あとはある程度ベルトコンベアー式に治療が決まっていくという話をしていたと思います。
このはじめの治療を決めるときにBRAFやRAS遺伝子、大腸癌が左右どちらにあるかなどが重要とお伝えしたと思います。
このCVポートとはどんなものか?
消しゴムをイメージしてください。
小さ目のまとまる君くらいですね。
まとまる君にカテーテルがついたものです。
カテーテルの先端は大静脈という一番太い静脈に留置されています。
つまりまとまる君にプスッと針を刺して抗がん剤を入れると、心臓の近くの太い静脈にしっかりと流れ込むという仕組みですね。
まとまる君を埋め込む場所は、だいたい乳頭の少し頭側くらいの皮膚の下です。
ただ、最近では上腕、つまり腕の皮下に埋め込むこともありますので、どこに埋め込むかは病院にもよりますし、みなさんの希望次第でもあります。
CVポートを作るメリットとデメリット
CVポートに限らず何か医療行為を行うときには、メリットとデメリットがあります。
メリットがデメリットを上回ったときに、医療行為を行うんですね。
メリットとデメリットについて箇条書きにして、一つ一つ簡単に解説していきたいと思います。
・抗がん剤が漏れにくい
・毎回何度も針を刺されることがない
・抗がん剤による血管痛が少ない
・高カロリー輸液ができる
抗がん剤が漏れにくい
これはなんとなくイメージできると思います。
体の中で一番太い血管にカテーテルが留置されているので、しっかりと抗がん剤が血管の中に入る可能性が高いです。
抗がん剤は刺激が強い薬なので、腕の細い静脈では漏れてしまうリスクが比較的高いんですね。
そして一度漏れてしまうと大変な問題です。
皮膚が壊死してしまう可能性があるからです。
万が一皮下に漏れてしまったらどうするかというと、もっとも大事なことは点滴をすぐに中止することです。これが一番大事です。
そのあとステロイドの入った注射を皮下に打ったり、冷却したりすることも多いですが、しっかりとしたエビデンス(科学的根拠)のある治療がないのが現状です。
CVポートを使っても漏れることもありますが、末梢静脈(腕の細い静脈)よりはリスクが低いと考えます。
毎回何度も針を刺されることがない
「さあ、今から抗がん剤をやるぞ!」というときに「あれっ?点滴が入らない」となる時があります。
当然うまく末梢静脈に入らなければ抗がん剤治療を行うことは難しいです。
確かに血管の走行というのは個人差が強く、探しても探してもあまり良い血管が見つからないことがあります。
そうなると何度も何度も針を刺す必要があり、患者さんにとっては苦痛の時間になってしまうんですね。
しかも抗がん剤治療を長い間行っていると、実は血管はどんどん柔軟性が失われてしまいます。
そうなるとさらに留置することが難しくなったり、抗がん剤が漏れやすくなったりしてしまうんですね。
この点ではCVポートにメリットがあります。
まず失敗することはないですからね。
ただ胸部に作成すると、針を胸に刺されるという恐怖感はあると思います。
抗がん剤による血管痛が少ない
抗がん剤というのは刺激が強い薬であると、先ほどお伝えしました。
細い血管に抗がん剤を注射すると血管に痛みが起こる場合があります。
もちろん抗がん剤の種類にもよるのですが、例えばオキサリプラチンは血管痛が起こることが比較的多い抗がん剤です。
血管痛がひどい場合はその薬剤を中止せざるをえないこともあるんです。
CVポートは血管痛が起きにくいので、作成するメリットがあります。
高カロリー輸液ができる
CVポートがあるとカロリーがしっかり入った点滴をできます。
末梢静脈(腕の細い静脈)に高カロリーの点滴を入れてしまうと、静脈炎を起こして赤く腫れてしまいます。漏れることで腕がパンパンに腫れてしまうなんてこともよくあるんですね。
抗がん剤と同じ原理です。
例えば抗がん剤治療を受けている最中に体調不良になって、食欲がなくなってしまった。
もっと頑張って続けたいのに・・・という時に高カロリー輸液を行うことで、体の衰弱を防ぐことができます。
これも積極的に抗がん剤を続けたいと思っていらっしゃる方にとっては、大事なメリットになるかと思います。
・入院が必要。それによる時間的、金銭的ロス
・美容的問題
・術中トラブル
・術後トラブル
・最期まで高カロリー輸液ができてしまう
入院が必要。それによる時間的、金銭的ロス
CVポートを埋め込むだけとは言っても、ちゃんとした手術です。
当然入院が必要になるんですね。
手術時間は1時間くらいで、外科の先生だけでなく僕たち消化器内科医も手術を行います。
どの科の先生が行うかはその病院によって決まっていることが多いので、しっかりとお聞きください。
CVポート作成のために入院するということは、当然時間的にも金銭的にもロスが発生します。
とにかく早く抗がん剤治療を始めなければいけないという状況の時は、まずはポートを作らず開始するという場合もあります。
あとはベバシズマブなどの分子標的薬を使いたいときには、CVポートを作ってから少なくとも1週間は抗がん剤開始までの期間を空ける必要があります。
もちろん金銭的ロスもあります。
入院が必要ですからね。
お金なんて・・・
とおっしゃる方もおられるかもしれませんが、抗がん剤治療は長いのでお金もバカになりません。
事実、金銭的理由で終了する方もおられます。
このあたりは高額療養費制度というものを利用すればトータルで費用は余分にかからない、ということもあります。
その代わり月は股がない方が良いですね。
ただ、お金を優先して治療が遅れてしまうということは本末転倒なんですけれどもね。
もしも例えば月末入院と月始めの入院を選べるのであれば月始めにした方が良い、ということですね。
美容的問題
特に女性にとっては大事な問題です。
皮下に埋め込むので直接見えるわけではありませんが、やはりぽこっとした段差は見えてしまうんですね。
「温泉に行きたくなくなった」とおっしゃった患者さんを経験したことがあります。
こちらも一緒に落ち込んでしまったのを思い出します。
術中トラブル
これは当然起こりえます。
何と言っても手術ですからね。
局所麻酔のキシロカインという薬であってもショックが起きることだってありますしね。
だけど、最も多いのは気胸や動脈の誤穿刺ではないでしょうか?
気胸というのは肺に穴が空いてしまうことですね。
特に胸部に作る場合には問題になります。
せっかく患者さんがポート造設や抗がん剤治療の覚悟をして下さっているのに、気胸になってしまったらさらに治療が必要になり、抗がん剤治療が遅れてしまいます。
気胸の合併症というのは医者であればかなりの方が経験されたことがあるのではないでしょうか?
僕も一度ありますが本当に申し訳ない気持ちになります。
実はその頃はエコー(超音波)を使って行っていなかったんですね。
以前はおそらくほとんどの病院で使っていなかったのではないでしょうか?
今では必ずエコーでリアルタイムに肺の動きや血管の位置を見ながら刺すので、そのような合併症は格段に減っているはずです。
実際、エコーを使い始めてからは一度も気胸の合併症が起きたことはありませんし、動脈への誤穿刺も起こっていません。
なので、皆さんも過度に心配する必要はありませんよ。
とは言っても合併症ゼロというのは医療においてはありえないことなので、そのあたりのご理解は必要です。
術後トラブル
術後トラブルも一定数あります。
一番多いのは感染ではないでしょうか?
血管という無菌であるべきものに、異物であるカテーテルを入れるのです。もしも感染してしまったら大変なことになってしまいます。
熱が出てきて、体が震えだすことがあります。
しかも抗がん剤治療を続けていて、血液中の白血球が減っていたりすれば感染に立ち向かえなくなっている可能性もあるんですね。
そうなんです。
一度感染が起こってしまったら抜くしかありません。
ポートを作ったところの皮膚を少し切り開いて抜去します。
あとは抗生剤(抗菌薬)治療を行うんですね。
ここでしっかりと完治させておかないと、後々の抗がん剤治療が難しくなってくるので、しっかりと治療します。
あとはピンチオフと言ってカテーテルが切断されてしまったり、カテーテルが閉塞してしまうことがあります。
これはケースバイケースで対応していく必要があります。
病院によって決まりなどがあるはずですので、それに沿って対応されると思います。
要するに作ったら終わりではなく、術後にもいろいろ考えるべき問題があるということです。
当然特に合併症が起こらずに、抗がん剤治療をやり遂げる方もたくさんいらっしゃるので、過度に不安になる必要はありません。
最期まで高カロリー輸液ができてしまう
これは医者の中でも意見が分かれるところです。
僕はというと、このようにデメリットであると考えています。
まずはCVポートがない場合について考えてみましょう。
抗がん剤を何度もやっていると末梢の静脈が硬くなってきて、点滴を行うことが難しくなってきます。
点滴が入らないと何度も何度も刺されて辛い、と思われるかもしれませんね。
でも、もう抗がん剤をしないという段階になると、別に末梢の静脈に必ず点滴を入れないといけないわけではないんですね。
そんな時にCVポートが必要だろ!とおっしゃる先生もいらっしゃるとは思いますが、僕は全くそうは思いません。
むしろ終末期になると過剰な点滴の方が体には毒になる可能性があります。
高カロリーなんて必要ないんですね。
1日500ccから1リットルの点滴が入れば、全く問題ありません。
ちなみに皮下点滴というのはお腹とか太ももとか広い部位の皮膚の下に針を留置します。
点滴が終われば抜けば良いだけです。
末梢点滴と違って皮下点滴は失敗することはまずないので、その点からも患者さんやご家族から何度も感謝されました。
そしてCVポートがあると、最期まで高カロリー輸液を行ってしまう可能性が高いです。
本当は高カロリー輸液なんて必要ないんですが、点滴バックの大きさや種類が変わったら患者さんはどう思われるでしょうか?
「もう見放されんだ」
そんな気持ちになってしまうかもしれません。
そうなんです。必要のない、むしろ害になってしまうかもしれない高カロリー輸液を最期まで続けなくてはいけない可能性があるんですね。(点滴量が多いとそのまま腹水や胸水、足のむくみの悪化につながる可能性があります)
この辺りは医者や患者さんの考え方、人生観などもあるので一概にデメリットであるとは言えませんが、少なくとも僕は迷いながら治療を行っているのが現状です。
CVポートを作ると抗がん剤のレジメンが変わる?
抗がん剤のファーストラインの治療を決めるに当たって、CVポートが作るかどうかというのは大きな問題です。
つまりCVポートの有無で、使用する薬剤が変わってくるんですね。
例えばFOLFOXやFOLFILIというレジメンはCVポートがないとできません。
46時間の持続点滴が必要だからです。
逆にSOXやIRISというレジメンにはCVポートが必要ありません。(別に作ってもいいのですが、時間的ロスが大きいので作らないことが多いです。)
この中のどれを選んでも予後には関係しないと言われているので、ご自身の希望から決めると良いかと思います。
もちろん血管が細すぎて全く入らない場合などは、どの抗がん剤治療を行うにしてもCVポートが必要になるかもしれませんね。
このようにいろいろな要素でCVポートを作るかどうかを決めるのです。
それでは実際にファーストライン治療を決めてみましょう。