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高齢者の便秘にはどんな治療を行えばいいの?〜薬の観点から〜
こんにちは。
今日は高齢者の便秘に絞ってお話ししたいと思います。
お付き合いください。
高齢者ってなんで便秘になりやすいの?
高齢者は本当に便秘で悩まれている方が多いです。
その原因は数えだすときりがないくらい多いのですが、少しだけ一緒に考えてみましょう。
・食事摂取量が少なくなる
・運動量が少なくなる、筋肉が衰える
・腸の動きが悪くなる
・薬の副作用
ざっとこんなところでしょうか?
簡単にあげるだけでこのくらいですが、もっともっとたくさんの原因が絡み合って便秘を発症することが多いです。
若い人に比べて高齢者の方が考えるべき便秘の原因が多く、難易度も圧倒的に高いですね。
高齢者の便秘はいろんなことが絡み合って起こるから、治療の難易度もぐっと高くなるで。
食事をしっかりとって活動量が多いご高齢の方は、便秘になりにくい印象があります。
食事・運動・睡眠はすべての治療の基本になりますので、負担にならない程度で心がけてくださいね。
寝たきりになってしまうとなおさら便秘のコントロールは難しくなってしまいますので。
寝たきりになってしまうと便秘のコントロールは激ムズになるで
高齢者がお薬を飲むときの注意点
・肝臓や腎臓の機能が弱っている
・他にもたくさんの種類の薬を飲んでいることが多い
・飲み忘れが多い
・PTPシートごと飲み込んでしまう
①肝臓や腎臓の機能が弱っている
これはすごく大事なことです。
というのもお薬はほとんどが肝臓と腎臓で代謝されるからです。
特に肝硬変や腎不全などの病気がない方でもやっぱり肝臓や腎臓は弱っているのです。
なので睡眠薬を飲んだだけで意識障害になって救急車にお世話になるとか
胃薬を飲んでいるだけで意識障害になるだとか
若い人では考えられないようなことも起こりうるのです。
特に病気がなくても肝臓や腎臓の機能はどうしても歳をとると衰えるから、どんな薬を飲む時も副作用に気をつけやなあかんよ!!
ちなみに睡眠薬を飲んだだけで意識障害になって運ばれるというケースは多いのですが、ただ寝ているだけという可能性があるんですね。
特に治療していないけれども、少し時間が経つとむくっと起き上がる
ということを何度か経験しました。
薬を飲むときは少量から始めて、症状を見ながらゆっくりと増量していくのが基本となります。
特に肝硬変や腎不全がある方にはなおさら注意が必要ということですね。
「薬の量はゆっくりゆっくり増やそう」が基本やで!!
②他にもたくさんの種類の薬を飲んでいることが多い
高齢者は便秘薬以外にもたーくさんの薬を飲んでいることが多いんですね。
医学的にはポリファーマシーなんて言葉で表現したりします。
お薬手帳見開きでは治らないくらい薬を飲まれている方もたくさんいらっしゃいます。
もうご本人もご家族も何を飲んでいるかわからないくらいになっています。
これは大問題ですよね。
薬の飲み合わせの問題もありますし、薬を飲んでいるだけでもお腹がいっぱいになってしまって、食欲がわかないとおっしゃる方もいらっしゃいます。
もうなんのために薬を飲むのかわからないですよね?
僕のところに受診される患者さんには、ご相談の上でどんどんいらない薬は減らすようにしています。
やっぱり多くても5種類くらいの薬には抑えておきたいところです。
ちなみに薬の有害事象は薬剤数にほぼ比例して増加します。
6種類以上の副作用が有害事象の発生増加に関連するという報告があるのです。
薬を6種類以上飲むと有害事象が出やすいで。なるべく5種類くらいまでにしよう!!
そういう背景もあるので
便秘薬も何種類も出さないように心がけています。
ベストは1種類だけでコントロールすることですが、パーキンソン病など便秘のコントロールが難しい患者さんには3種類とか4種類出してしまうこともあります。
このあたりは本当に難しい問題ですね。
なるべく便秘薬は1種類、無理でも数が多くならないように心がける
③飲み忘れが多い
これも本当に多いですね。
特に毎日飲んで血中濃度を維持しなければならないような薬だと問題になります。
飲んでいても効果がないということになってしまうので。
一包化といってひとまとめにしておくと飲み忘れは減るのですが、今度はご自身で何を飲んでいるのか全くわからなくなってしまうのです。
一包化も必ずしも良いことではないんですね。
便秘薬は血中濃度を測ったりする必要がないものばかりなので、この点から考えると問題はなさそうです。
④PTPシートごと飲み込んでしまう
PTPシートってご存知ですか?

これです。写真は持田製薬株式会社のグーフィス製品情報から引用させていただきました。
PTPシートは一つ一つ切り離して使うと、角が角ばるんですね。
そして
高齢者はなぜかこのシートごと丸っと飲んでしまうことが多く、食道で引っかかってしまうことがあるんです。
引っかかって取れないようなら胃カメラでとることになります。
胃カメラでPTPシートをとる時にも食道に傷がついて破れることや出血することがあるので、とっても危険な手技なんですね。
なので僕ら消化器内科医は正直なところ、この手技はやりたくないと思っています。
実際に内視鏡写真をお見せしましょう。

これはPTPシートを間違って飲んでしまった写真です。
この写真は食道の写真で、PTPシートが食道で引っかかってしまっているんですね。


鉗子(かんし)で挟み込んで優しく引っ張り上げました。

このようにPTPシートを取り除きました。
そして取り終えた後に食道に穴があいていないか確認してみます。

実際に便秘薬は何を飲めばいいの?
それでは実際にどんな便秘薬を飲めば良いのか、ということについて考えていきましょう。
まず、現在どんな種類の便秘薬が選択肢として使えるかご存知ない方は以下のブログを読んでからお付き合いくださいね。
今日は比較的新しい便秘薬を中心にまとめてみますのでお付き合いください。
まず大前提として
今日本で処方されている便秘薬のうち、
酸化マグネシウムという薬と刺激性下剤だけで80%以上を占めています。
ただ、酸化マグネシウムは高齢者や腎臓が悪い人には高マグネシウム血症という怖い副作用を起こしてしまうことがありますし、刺激性下剤は毎日使用するとさらに便秘がひどくなり、どんどん依存してしまうという怖い薬です。
高齢者は酸化マグネシウムと刺激性下剤はなるべく飲まん方がええです
刺激性下剤の怖さについては以下のブログを参考にしてくださいね。
そして今は便秘の新薬がたくさん出てきているので、酸化マグネシウムと刺激性下剤にこだわる必要は全くないんですね。
比較的新しい便秘薬にはどんなものがあるのかリストアップしてみましょう。
①リンゼス
②モビコール
③ラグノス
④グーフィス
⑤アミティーザ
①リンゼス
リンゼス。僕は好きな薬ですね。
なぜか?
飲み合わせを気にする必要がないんですよね。
腸の神経にも働きかけて腹痛を取り除いてくれる効果も期待できます。
もしかしたら大腸ガンになりにくくする作用もあると言われています。
僕は使うことが多いですね。
下痢の副作用が多いのが難点です。
②モビコール
アメリカでは一番使われている薬です。
とにかく便を柔らかくしてくれる薬と思ってもらえると良いです。
飲み合わせも気にしなくて良いですし、酸化マグネシウムと違って高マグネシウム血症の副作用もないので使いやすい薬になっています。
リンゼスと同じくらい良いのではないかと僕は思っていますが、毎回水にとかして飲まないといけない手間を考えて2番にしました。
③ラグノス
ラグノスも便を柔らかくしてくれる薬です。
これは薬というよりオリゴ糖と思ってください。
糖尿病の方には少し注意が必要ですが、比較的扱いやすい薬になっていると思います。
④グーフィス
グーフィスは胆汁酸の吸収を阻害することで便秘を改善する薬です。
飲み合わせが比較的悪く、若干気をつけなければいけません。
あとは肝臓が悪い人やなんらかの理由で胆汁がうまく腸管に出せない人には効果がありません。
さらにPTPシートなので、認知症などがある際はシートごと飲まないように注意が必要なんですね。
グーフィスは刺激性下剤の一種と考えても良いと僕は思うので、頓服で飲んでも良いかもしれませんね。
⑤アミティーザ
アミティーザはとても良い薬で、小腸を守ってくれる働きがあるとも言われていますが、ご高齢の方が飲む際には少し注意が必要です。
腎臓や肝臓の機能が落ちている方には使うべきではないとされていますし、 グーフィスと同様PTPシートですので飲む際に注意が必要なんですね。
順位は5番になっていますが、もちろん僕もご高齢の方に使う場面もありますし、大事な薬の一つです。
まとめ
今は本当に便秘薬の種類が増えてきて、おそらくもう少ししたら新しい便秘薬がもう一種類増えるという噂を聞きました。
どんどん種類が増えてきて、ご高齢の方で便秘に悩まれている方への選択肢も増えています。
薬局で買える市販の便秘薬(OTC)は、たくさん種類があるのですが成分は本当に限られたものを違う割合で混ぜているだけです。
市販の薬では効果がない方はぜひ病院に受診していただき、いろんな便秘薬を試してみてくださいね。
最後にお値段の話ですが、
酸化マグネシウムはやっぱりとにかく安い薬です。
今日ご紹介した薬は酸化マグネシウムに比べると高い薬になっています。新しいですしね。
この点では注意が必要なのですが、3割負担だと1つの薬あたり一ヶ月に2000円くらいの負担になるのかなあと思います。
なので高齢者であればもう少し安くなるのですが、この値段を高いと感じるか安いと感じるかは人それぞれだと思います。
酸化マグネシウムと便秘の新薬のどちらがいいかという話によくなるのですが・・・やっぱり酸化マグネシウムは高齢者にはお勧めできないですね。
今日は以上です。
今日もお疲れ様でした。