お腹の病気

大腸癌ステージ4に行う抗がん剤治療をわかりやすく解説してみる!④

大腸癌ステージ4に行う抗がん剤治療をわかりやすく解説してみる!④

こんにちは、べんぴ先生です。

今日も大腸癌に行う抗がん剤治療について解説していきたいと思います。

今日は具体的な例をあげながら、どのような抗がん剤をファーストラインで選ぶべきか一緒に考えていきましょう。

お付き合いください。

今までのブログを読んでおられない方はこちらを先に読んでくださいね。

大腸癌の例①

55歳男性

主訴 血便

既往歴、服薬歴なし

家族歴:父親が大腸癌で他界(70歳)

現病歴:時々血便が出るようになった。痔による血便だと思っていたが、数ヶ月続くためさすがに心配になって来院。大腸癌が心配とのことで大腸カメラ検査を希望された。受診1週間後に大腸カメラ検査を予定し、行ったところS状結腸に進行癌を認めた。自然に出血していたがまだまだ内腔に余裕はあり、腸閉塞がすぐに起きるような状況ではなかった。CTを撮影したところ肝臓に5個転移を疑う腫瘍あり。外科と協議したところ切除の適応はないと判断された。

社会的背景:会社員で今行っているプロジェクトの中心メンバーであり、半年後まで忙しい。なかなか仕事を休めないし、入院も難しい

ご本人の希望:できればしっかりと治療して、抗がん剤治療で肝臓の腫瘍を小さくして手術したい。

RAS遺伝子・BRAF遺伝子変異なし

血液検査では貧血はさほどひどくない。少なくとも当分輸血は必要なさそうである。

 

べんぴ先生

実際の症例を少しいじったものや。

ガンコちゃん

なんか本格的ですね。ドキドキしてきた。

べんぴ先生

実際にみんなの前でプレゼンテーションする時やカルテに書くときはこんな感じやよ。これでもだいぶ患者さんの言葉を医学的な言葉に置き換えているんや。

ガンコちゃん

な、なるほど。

べんぴ先生

患者さんの話したことをそのまんまカルテに書いたりするのは能がない。しっかりと医療者が見てわかりやすいように自分で言葉を置き換えてあげる必要があるんよ。

ちなみに

既往歴=今までにどんな病気があるのか?例えば20歳の時に虫垂炎の手術を行ったとか、高血圧で現在も内服治療中とかですね。

服薬歴=今現在どんな薬を飲んでいるか?今までにどんな薬を飲んだことがあるか?などですね。

 

少し構えてしまうかもしれませんが、ゆっくり丁寧に読んでみてください。

今までのブログをしっかりと理解されている方であれば、ある程度咀嚼することが可能かと思います。

それでは解説していきます。

 

この方はお父さんが大腸癌で亡くなっている、つまり大腸癌のハイリスクだったんですね。

毎年会社の健康診断を受けていて、便潜血検査は異常を指摘されたことがなかったので大腸カメラ検査は受けたことがなかったんですね。

 

抗がん剤治療とは関係ないですが、一つポイントがあります。

大腸癌家系などハイリスクの方は便潜血検査だけでなく大腸カメラ検査も定期的に受けるべき。40歳になったら一度は大腸カメラ検査を受けましょう。

考えるべきこと

①BRAF・RAS遺伝子

②大腸癌が左右どちらにあるか

③オキサリプラチンとイリノテカンのどちらを使うか

④ポートを作るかどうか

⑤コンバージョンセラピーを狙うかどうか

これに沿って考えていきましょう。

①RAS遺伝子・BRAF遺伝子➡︎変異なし

②大腸癌が左右どちらにあるか?➡︎S状結腸癌ですので左側ですね。

③オキサリプラチンとイリノテカンのどちらを使うか➡︎これは置いておきましょう。

④ポートを作るかどうか➡︎入院ができないくらい忙しいので、ポートは作れないですね。

⑤コンバージョンセラピーを狙うかどうか➡︎忙しいけれどもできる限り狙いたい、という意思がはっきりしています。

下の図を覚えていらっしゃいますか?

すでに何度か出てきていますね?

 

このアルゴリズム通り行くと BRAF遺伝子、RAS遺伝子に変異がなくて大腸の左側に腫瘍があるのでFOLFOX/FOLFIRI+Cet/Paniがオススメということです。

一番下の四角ですね。

Cetはセツキシマブという分子標的薬で

Paniはパニツムマブという分子標的薬です。

 

ただ、この方は今仕事が忙しく入院ができない状況です。

FOLFOXやFOLFIRIというのはCVポートが必要ですので、このレジメンは使用できません。

しかもFOLFOXやFOLFIRIは2週間に一度外来に受診していただく必要があるので、仕事で忙しいので、その点でもお勧めできませんね。

 

ガンコちゃん

こんな風に考えるんですね。

べんぴ先生

具体例で考えたほうがわかりやすいやろ??

ガンコちゃん

そうですね。今まで習ったことに意味があった気がします。

 

そしてこの方はできればコンバージョンセラピーを狙いたいということでしたね?

コンバージョンセラピーというのは始めは根治手術が不可能と言われたのですが、抗がん剤治療をやっていくうちに腫瘍が小さくなって、外科治療に踏み切ることができるということでした。

 

コンバージョンセラピーを狙うのであれば、FOLFOX/FOLFIRI+Cet/Paniがもっとも良い選択の可能性が高いのですが、今回は仕事を優先したいとのことですので選ぶことができません。

医学的にもっとも良いと考える治療が、ご本人にとってもっとも良い治療とは言えない典型例ですね。

 

そうであれば残りの選択枝の中でもっとも良いものを選ぶしかありません。

 

オキサリプラチンとイリノテカンのどちらを使用するかで、必然的に選ぶべきレジメンは決まってきます。

 

コンバージョンセラピーを積極的に狙わないのであれば、僕ならイリノテカンを使用しますね。

なぜかというと、治療後のQOLが相対的に高いからです。

以前のブログでお伝えしているとは思いますが、オキサリプラチンを始めに使ってしびれの副作用が残ってしまうと、なかなか治らないんですね。

そうなるとセカンドライン(2番目の治療)以降もしびれに苦しめられることになります。

手足のしびれがひどいと、手足に皮疹が出たり痛みが出るような抗がん剤・分子標的薬が使用しずらくなるので、治療の選択しも狭まってしまいます。

オキサリプラチンを始めに使っても、イリノテカンを始めに使ってもOSつまり全生存期間が変わらないのであれば、QOLを重視してイリノテカンを始めに使用したいということです。

ガンコちゃん

大事なのはOS×QOLつまり量×質でしたよね?

べんぴ先生

素晴らしい!これが一番大事なことなんよ。

 

ただ、この方は忙しい中でもコンバージョンセラピーを狙いたいということでした。

そうであればオキサリプラチンを最初に使うべきかもしれません。

なぜならイリノテカンには脂肪性肝炎という副作用があるからです。

せっかく抗がん剤治療の効果が出て、肝臓の切除も可能になったとしても肝炎があれば手術できなくなってしまう可能性があります。

あとはオキサリプラチンの方が若干切除率が高まるという報告もあるんですね。

 

このような理由からオキサリプラチンをファーストラインに使うことを患者さんに提案することにします。

 

オキサリプラチンを使うのだけれどもポートは作らない。

そうなると選択枝は2つです。

CapeOX+BevもしくはSOX+Bevです。

 

CapeOX+Bev=カペシタビンとオキサリプラチンの2つの抗がん剤とベバシズマブという分子標的薬を組み合わせたレジメンです。

SOX+Bev=S-1とオキサリプラチンの2つの抗がん剤とベバシズマブという分子標的薬を組み合わせたレジメンです。

 

さてみなさんならどちらを使いますか?

決められないですよね。笑

 

これは医者がどちらのレジメンを使い慣れているかなども大事な要素になってくるのですが、僕ならSOX+Bevをお勧めします。

 

これは前回にもお伝えしたと思うのですが、カペシタビンという抗がん剤は手足皮膚反応という副作用が結構な割合で出現してしまうんですしたね。

オキサリプラチンのしびれにこの手足皮膚反応が加わってしまえば、あとあとのQOLがものすごく下がってしまう可能性があるんです。

stageⅢで術後補助化学療法として行う場合は、あとが控えていないので良いかもしれませんが、stageⅣでこれから抗がん剤を続けていくという場合には、とても使いづらいかもしれませんね。

 

ということで

僕がお勧めするレジメンは

SOX+Bevです。

 

ガンコちゃん

パチパチパチパチ。

べんぴ先生

少し医者の頭の中のが見えたのではないかな?

ガンコちゃん

そうですね。てきとうに決めているわけではないということがわかりました。

良い意味で妥協することもあるということがわかっていただけたかな、と思います。

アルゴリズム通りにやっていけば、患者さんにとって一番良い治療法がわかるのであれば医者なんて必要ありません。

社会的背景や患者さんの譲れない部分、精神的な要素などを加味して、一緒に治療方針を決めていく。これが医療の醍醐味ですね。

 

さて、次の症例に行ってみましょう。

大腸癌の例②

70歳女性

主訴 なし

既往歴 脂質異常症 帝王切開1回(25歳の時)

服薬歴 クレストール(脂質異常症の薬)

現病歴 脂質異常症のコントロールのために家から近くのクリニックに定期通院していた。特に症状はなかったが、1年に1度のお腹のエコー検査を受けたところ肝臓に多発する腫瘍を認めた(1年前には肝腫瘍は一つも認めなかった)。クリニックでは精査することが困難であったため近くの総合病院へ紹介となった。

その後総合病院の消化器内科に受診された。病院ではまずは血液検査と造影剤を使ったCT検査を行った。CTでは肝臓以外にははっきりとした異常所見は認めなかったが、肝臓の腫瘍はどこかからの転移巣である可能性が高いと判断された。原発巣を探すために胃カメラ検査と大腸カメラ検査を予定された。後日検査を受けると上行結腸に進行癌を認めた。腫瘍はある程度大きかったが、閉塞するほどの大きさではなかった。

外科と協議を行ったところ、原発巣の手術は可能であるが、肝臓の転移巣をすべて切除することは困難と判断され、根治手術は不可能という判断になった。

社会的背景:すでに夫は5年前に膵臓癌のため他界。一人暮らしであるが、近くに娘夫婦が住んでおり、何かあったらいつでも手伝ってくれる状況。年金暮らし。

趣味:絵を描くこと

抗がん剤を使うにあたっての希望:脱毛だけは避けたい。長生きはしたいし、できれば手術を受けたいが、もう夫にも先立たれており、生きることに関してものすごく執着心があるわけではない。

BRAF遺伝子変異なし。RAS遺伝子変異あり

 

 

ガンコちゃん

今回の患者さんはこんな感じなんですね。

べんぴ先生

このような患者さんはすごく多いよ。ものすごく長生きしたいわけではないんやけど、やっぱりできるだけ長くは生きたいということや。

ガンコちゃん

このような方にはどんな治療をするんですか?

べんぴ先生

うん。今日も一緒に考えていこう。

積極的な治療を行うかどうか

もうお子さんも家庭を築かれていて、夫にも先立たれている。

どうしても長生きしないといけないという状況ではないですが、そうは言っても誰だってある程度長生きはしたいですよね?

 

そして女性の平均年齢から考えると70歳という年齢は少し若いですね。

 

このような場合にはまず、積極的な抗がん剤治療を行うのかどうかを決めなくてはいけません。

つまり選択肢は3つ。

選択肢

・通常通り積極的な抗がん剤治療を行う

・少し弱めの抗がん剤治療を行う

・抗がん剤治療を行わず、緩和ケアのみ行う

真ん中の「少し弱めの抗がん剤治療を行う」という選択肢があるんですね。

つまりオキサリプラチンやイリノテカンなどの強い抗がん剤は使わずに、抗がん剤や分子標的薬を組み合わせて行う治療です。

 

当然効果は通常の抗がん剤レジメンよりも弱くなりますが、全く行わないよりは寿命を伸ばすことが可能です。

 

この3つの選択肢を提示したところ、この患者さんは積極的な治療を希望されました

ガンコちゃん

いろんな選択肢があるんですね。

べんぴ先生

うん。人生は選択の連続やで。

それでは前回と同じように一つ一つの要素について確認していきましょう。

考えるべきこと

①BRAF・RAS遺伝子

②大腸癌が左右どちらにあるか

③オキサリプラチンとイリノテカンのどちらを使うか

④ポートを作るかどうか

⑤コンバージョンセラピーを狙うかどうか

 

この方は残念ながら症状はないのに、すでにstageⅣの大腸癌だったのです。

上行結腸ということは右側の大腸ですね。

右側の大腸ではまだ便が固形ではないので、腸閉塞の症状が出にくいんですね。

なのでこのように、特に症状がなくても何かの検査の際にたまたま見つかって、見つかった時にはすでに肝臓や肺に転移しているということがよくあります。

 

逆に症状がない、腸閉塞になりかかってもいないというのは抗がん剤治療を開始する上では、有利な状況にあるんですけどね。

 

①BRAF遺伝子変異なし。RAS遺伝子変異あり

②大腸癌は上行結腸にあるので右側ですね。

③オキサリプラチンとイリノテカンのどちらを使うか?➡︎これは置いておきましょう

④ポートを作るかどうか➡︎これも置いておきましょう。

⑤コンバージョンセラピーをできれば狙いたい

ガンコちゃん

RAS遺伝子異常ありますね。

べんぴ先生

うん。だいたい50%くらいで異常があるからね。変異型というわけや。

前回同様まずはアルゴリズムに沿って考えてみましょう。

まずBRAF遺伝子変異がありませんが、RAS遺伝子変異があります。

この時点でオススメの抗がん剤レジメンはある程度決まります。

 

2剤/3剤+Bevですね。

 

2剤と3剤

・2剤➡︎FOLFOX  CAPOX  SOX  FOLFILI  S-1+IRI

・3剤➡︎FOFOXIRI

 

ここまできたらあとは考えるべきは以下の3点ですね。

③オキサリプラチンとイリノテカンのどちらを使うか?➡︎これは置いておきましょう

④ポートを作るかどうか➡︎これも置いておきましょう。

⑤コンバージョンセラピーをできれば狙いたい

 

ただ、この方は副作用の脱毛を拒絶されています。

これは女性に特に多いことであり、当然その気持ちは理解できます。

ただ、ほとんどの抗がん剤には多かれ少なかれ脱毛という副作用はあるんですね。

この方は積極的な抗がん剤治療を希望されたので、多少の脱毛は我慢するということになりました。

そうは言ってもなるべく脱毛しないようにしてあげたいと考えるのが普通でしょう。

そうなるとイリノテカンは使いずらいですよね?

 

FOLFOX+Bev

CAPOX+Bev

SOX+Bev

 

この3つが選択肢として残りました。

ガンコちゃん

先生、CAPOXは使わないんじゃなかったでしたか?

べんぴ先生

よく覚えているね。前回も説明した通りCAPOXは僕は好きではない。はじめに副作用が強く出てしまうとあとあとのQOLが格段に下がってしまうからね。

もちろんCAPOXを選択しても間違いではありません。

この辺りはみなさんと主治医の判断になってくるので。

ただ僕があまり使わないというだけです。

 

あと考えるべきは主にこの2点です。

④ポートを作るかどうか➡︎これも置いておきましょう。

⑤コンバージョンセラピーをできれば狙いたい

 

FOLFOX+Bev

SOX+Bev

コンバージョンセラピーについてはものすごく強い意志があるわけではなさそうなので、ポートを作るかどうかで決めたら良いのですね。

 

CVポートについて実際に患者さんに説明してみます。

CVポートのメリット・デメリットについては以下のブログでご説明していますので、参考にしてくださいね。

 

この方はすべての説明を聞いた上で、CVポートを作ることを決意されました。

 

FOLFOX+Bev

このレジメンをファーストラインで使用することに決定しました。

最も一般的とも言えるレジメンですね。

 

SOXは3週間に1度外来診療を受けるだけで良いのですが、家でも抗がん剤を内服しなければいけないというデメリットもあります。毎日毎日抗がん剤を飲むということは、その度に癌であることを思い出さなければならないんです。もちろん飲むこと自体がめんどくさいという方もいらっしゃいますしね。

その点FOLFOXというのは2週間に一度外来で点滴するだけで、家で抗がん剤を内服する必要がないというのがメリットです。ただ、46時間持続点滴があるので、3日目にはご自身で針を抜いていただかなくてはいけません。

もしもご自身で針を抜くのが強ければ、化学療法センターに来院いただき、看護師さんに抜いてもらうこともできますので、そこは心配ご無用です。(もちろん来院する手間はありますが)

 

いかがでしたか?

「脱毛が絶対にいやだ」などの明確な意思表示があると、意外とレジメンを選ぶ際にはスムーズに決めることができるんですね。

ご自身の中で優先順位をあらかじめ決めておくのが良いかもしれません。

まあ、これは人生そのものでも言えることですよね?何を優先して生きていくのか。家族なのか仕事なのか?

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ABOUT ME
大北 宗由
大北 宗由
現役の消化器内科医師です。現在愛知国際病院で勤務しております。 便秘・下痢に関する正しい知識を広めるために日々ブログを書いています。 日本消化器病学会専門医・日本総合内科専門医・日本消化器内視鏡学会専門医