S状結腸軸捻転という病気をご存知ですか?
みなさんこんにちは。
べんぴ先生です。
今日も便秘に関連のある病気について解説していきたいと思います。
お付き合いください。
S状結腸軸捻転って何や?
みなさんS状結腸は覚えていらっしゃいますね?

ここですね。
このS状結腸の長さには実は個人差がかなりあります。
そしてこのS状結腸が生まれつき異様に長い人がいらっしゃるんですね。
そして便秘などでさらに腸管が伸びてしまったところで根っこの部分でぐるっとねじれるわけです。
こんな感じです。


こんなふうに捩れると大腸の中身が肛門から出て行けなくなってしまうんですね。
そうすると腸閉塞と呼ばれる状態になってしまうわけです。
お腹が張ったり、便が出なくなったり、痛みが出たりといろんな症状が出てくるのです。
この病態がS状結腸軸捻転です。
S状結腸軸捻転は生まれつきS状結腸が長く、便秘がちの人に発症しやすい
あとは高齢者に多い病気とも言われています。
具体的には70歳以上の人に多く発症しますが、精神疾患のある患者さんだと比較的若くても発症することがある印象です。
S状結腸軸捻転の治療法は?
まずは王道治療の説明からします。
実際の写真は後でお見せしますね。
S状結腸軸捻転の場合はまずは内視鏡治療が行われることが多いです。
つまり大腸カメラを使ってねじれてしまった大腸に、ひねりを加えることで元の位置に戻してあげるという治療法を行います。
まずは内視鏡治療で緊急手術となることを防ぎます。
そして腸閉塞がしっかり治ってから、再発予防のためにこの長ーいS状結腸を切除する手術を行います。(S状結腸軸捻転は再発率が高い病気です)
これがS状結腸軸捻転治療の王道です。
S状結腸軸捻転の治療は内視鏡治療を行ったのち、落ち着いたら手術を行う。
この基本をまず理解してください。
夜中にS状結腸捻転に対して緊急で大腸カメラ治療を行ったことが今までに何度あるか・・・
この手技は実はかなり辛いんですよ。
夜中寝ている時に呼ばれて、ウンチまみれになるのは本気で辛いです。
ただ、それでも緊急手術を行わないことに意味があるんです。
それは
緊急手術をすると死亡率が一気に上がるからです。
腸自体の合併症も多くなりますし、あとは誤嚥による肺炎のリスクなどがぐっと上がってしまうんですね。
そういう理由で、まずは内視鏡治療でもとどおりに戻して、落ち着いてから手術を行うことが勧められているわけです。
ちなみにこのような手術を待機的手術と呼びます。
緊急手術と対になる言葉ですので、覚えておいて損はないですね。
緊急手術を行うと死亡率や合併症の起こる確率が上がってしまう。
じゃあなんでもかんでも内視鏡治療を優先して行えばいいか?
と言われればそんなことはありません。
例えばすでに腹膜炎になってしまっている場合や腸が破れてしまっている場合は、内視鏡治療のリスクが高く、行うことができません。この場合は緊急手術へ一直線です。
そして例えば腹膜炎や腸管穿孔にはまだなっていないとします。
大腸カメラ検査をすぐに行い、大腸の粘膜の色がすでに黒っぽく変わってしまっていたら(つまり腸が壊死していたら)、大腸カメラ検査を中止して緊急手術を行います。
・初診時にすでに腸が破れていたり、腹膜炎になっている時
・大腸カメラをやったは良いものの、腸の粘膜がすでに壊死している時
このような時に大腸カメラ検査を継続すると、状況がさらに悪化して最悪死亡してしまいます。
何事も状況判断が重要ということです。
実際の症例を見てみましょう

まずはお腹のレントゲン写真です。
実はこれで診断はほぼ確定です。
ちなみに黒っぽく写っているのがガスですよ。
ここを見てください。

この黒いガスの形。
何かに似ていませんか?
そうなんです。
コーヒー豆そっくりですね。
これを実際にcoffee bean signと呼んだりもするんですね。
このレントゲンを見て診断を外すことは・・・おそらく研修医でもないと思います。
医師国家試験に出るレベルなので。
続いて実際のCT写真を見てみましょう。


上の写真はガスでパンパンになってしまっています。
下の写真はうずまきみたいに血管と腸管が巻き込まれているのがわかります。


これもS状結腸捻転としてとても典型的な所見です。
この患者さんはまだ腹膜炎になっている様子もなく、腸が破れている所見もありませんでしたので大腸カメラ検査を行うことにしました。
実際の内視鏡写真がこちらです。


粘膜がキュッとねじれているのがわかりますか?
これが軸捻転に特徴的な内視鏡所見です。
この患者さんはまだ粘膜はピンク色で特に出血もしておらず、壊死もない状態なので、このまま大腸カメラ検査を継続して良さそうですね。

捻転したS状結腸を通り過ぎ、捻転を解除した後に盲腸までたどり着くことができました。

捻転の整復はレントゲン下で行うことが多いのですが(病院によってはレントゲンは使わないそうです)、その時の写真をみるともっとわかりやすいかもしれませんね。
その時のレントゲン写真がこちらです。

白くて長い棒が内視鏡ですね。レントゲンで見るとこのように映ります。
ぐるっと大きくねじれているのがわかりますよね?
これを内視鏡をねじりながら引くことで解除します。
解除するとこんな感じになります。

内視鏡が直線になって、短縮できたのがお分かりかと思います。
うまく短縮できなくても大腸の中の空気を抜くだけで、自然に解除される時もありますが、個人的にはその場合には再発率が高い印象ですので、やっぱりしっかりと内視鏡で解除してあげた方が良いと考えます。
S状結腸軸捻転のまとめ
今日はS状結腸軸捻転について解説させていただきました。
この病気になってしまう人は、そもそもS状結腸が異常に長い方が多いんですね。そしてそのような腸管の形態に異常がある方は当然便秘になりやすく、便秘が悪化すると捻転になりやすくなるという負の循環があります。
そういう意味でも手術でS状結腸を切除して短くしてあげた方が、今後の便通コントロールのためにも良いというわけです。
ただ、緊急手術になってしまうと死亡率や合併症の起こる率が上がってしまいますので、なるべく早めに内視鏡治療で解除してあげて、待機的手術に持っていこうという治療の流れでした。
「こんな病気もあるんや〜」くらいの感じで覚えておいて頂けたら良いかな、と思います。
今日もお疲れ様でした。