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大腸癌ステージ4に行う抗がん剤治療をわかりやすく解説してみる!6
みなさんこんにちは。
べんぴ先生です。
今日も大腸癌の抗がん剤治療について解説していきたいと思います。
今日はペムブロリズマブという薬について解説させていただきたいと思います。
お付き合いください。
今までのブログを読んでおられない方はこちらを先に読んでくださいね。
ペムブロリズマブってどんな薬?
とにかく今日はペムブロリズマブという薬についてお話ししたいと思います。
商品名はキイトルーダです。
キイトルーダはどんな薬か?
最近大腸癌に対して使えるようになったばかりの薬なのですが、分類でいうと免疫チェックポイント阻害薬に分類されます。
免疫チェックポイント阻害薬。
お聞きになったことがありませんか??
・・・ないですか。
じゃあオプジーボはどうでしょうか?
ありますよね?
京都大学の本庶佑教授がノーベル医学生理学賞を受賞されたのを覚えていますか?
あれはPD-1という分子を発見されて、それがオプジーボという薬の開発につながったのです。
このPD-1分子こそが免疫チェックポイントです。
そしてキイトルーダもオプジーボと似たような薬なんですね。
はい。
免疫チェックポイントについてもう少し説明してみます。
ここで活躍する免疫細胞はT細胞というものです。
このT細胞は体内の免疫をつかさどっていて、体に入ってくる異物(細菌など)をやっつけてくれるんですね。
とても大事な細胞です。
ただ、この免疫が強すぎる場合があります。
免疫が強すぎると自分の細胞までやっつけてしまうんですね。
これがひどくなるといろんな病気を発症してしまいます。
これらの病気をまとめて自己免疫疾患(じこめんえきしっかん)と言います。
リウマチ関連の病気がおそらく最も有名ですが、消化器内科の分野で考えると
自己免疫性肝炎とか自己免疫性膵炎とかがよく知られていますね。
じゃあ免疫が一度強くなってしまったらもうダメなのかというと、そうではありません。
悪いループを断ち切るボタンがついています。
このブレーキボタンのことを免疫チェックポイントと呼びます。

ここまではよろしいですか?
そしてがん細胞というのは実はこの免疫チェックポイントと呼ばれるブレーキボタンをちゃっかり押してしまうんですね。


がん細胞にとってはこの免疫細胞というのは敵に当たるわけです。
がん細胞も体にとっては良くないものなので、免疫細胞にやっつけられてしまうんですね。
なのでこの免疫チェックポイントというブレーキボタンを押すことで、免疫細胞を冬眠状態のようにしてしまうことができるんです。
このボタンを押してしまえばがん細胞は「しめしめ」というわけです。
その間にどんどんがん細胞を増やすことができますからね。
免疫チェックポイント阻害薬はこのボタンを押している手を引き離すことができる薬です。
つまり免疫細胞の目を覚まさせることで、がん細胞をやっつけさせるんです。

「間接的に」がん細胞をやっつける薬なんです。
今までにご紹介してきた抗がん剤や分子標的薬というのは言ってしまうと「直接的に」がん細胞をやっつける薬でした。
がん細胞をやっつけるという意味では全部同じような薬なのですが、この点でキイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬は抗がん剤や分子標的薬とは違う薬と言えるわけです。
キイトルーダはどんな時に使える?
はい。キイトルーダが使えるシチュエーションはかなり限られています。
実は腫瘍の遺伝子がMSI-Hを示す場合にのみ使えます。
MSI-Hとは高頻度マイクロサテライト不安定性の事を指します。
少し話が大きくなってしまうのですが、
人間の体ってまるでミスが許されない精密な構造のようなイメージがないですか?
実は全くそんなことはありません。
毎日毎日ミスを繰り返しているのです。
遺伝子の観点からみるとミスをする回数が増えるとがん細胞ができるんですね。
毎日がん細胞というのは体内にできているんですよ、実は。
ただ、免疫細胞がそれらをチェックして潰しているだけなんです。
DNAレベルで見てみましょう。

遺伝子を複製する時にミスが起こるとします。
通常はそのミスを修正してくれる機構が働き、早め早めで対応してくれるのでがん細胞ができにくくなっています。
この修正してくれる機能をDNAミスマッチ修復機能と言うのですが、この機能がない場合があるんですね。


その場合は遺伝子に傷がいっぱい増えていってDNAが不安定になるわけです。
この頻度が増えることを高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-H)と言うわけです。
このMSI-Hを示すものにキイトルーダは良く効くというわけです。
逆に言うとMSI-Hの場合は通常の抗がん剤治療がなかなか効かない予後不良例が多いとされています。
キイトルーダが使えるのは20人に1人くらい
割と少ないですね。
ではキイトルーダはどのラインで使えるか?
一番目に使うときはファーストライン
2番目に使うときはセカンドラインなどと呼ぶのでしたね?
キイトルーダは現状ではセカンドライン以降に使えると言われています。
ファーストラインで使用できるかどうかについては、現在試験されているところです。
キイトルーダの使い方について大事なポイントを箇条書きにしてみましょう。
・MSI-Hを示すものにしか使わない
・現状ではセカンドライン以降で使う
・他の抗がん剤や分子標的薬とは併用しない。単剤で使う。
あとはキイトルーダの特徴について簡単に説明しておきましょう。
・結構長持ちする
・3週間に1回30分の点滴だけで良い
・値段が高い
・副作用が特徴的
結構長持ちする
キイトルーダなどの免疫チェックポイント阻害薬は、一度効果が出ると結構長持ちすると言われています。
つまり、抗がん剤や分子標的薬というのははじめにガツンと聞いてシューンと落ちていく傾向にあるのですが、じわじわじわじわずっと効く可能性があると言われています。
実際MSI-Hの大腸癌の方は、本来は予後がすごく悪いはずなのですが、キイトルーダを使うと18ヶ月全生存率が74%もあります。
今後キイトルーダの使い方やさらなる研究結果がわかってくるとさらに伸びそうですね。
3週間に1回30分の点滴だけでよい
これは大きいですよね。
FOLFOX(フォルフォックス)などの抗がん剤治療に比べて圧倒的にスケジュールにゆとりがあります。
値段が高い
まあ高いですね。
高いですよ。
体重50キロの女性と仮定しても1回36万円です。
1ヶ月換算で48万円です。
これについては以下の記事を参考にしてくださいね。
副作用についてはしっかりと説明する必要がありそうです。
キイトルーダの特徴的な副作用
キイトルーダという薬が今までの抗がん剤や分子標的薬とは一線を画する薬である、ということは今までの説明でわかって頂けたかと思います。
そうなんです。
キイトルーダの副作用はかなり特徴的なんです。
もちろん白血球が減ったりだとか吐き気が出るだとかの普通の副作用もあるのですが、特徴的な副作用だけでも箇条書きにしてみたいと思います。
①間質性肺炎
②大腸炎
③内分泌障害
④ギランバレー症候群や心筋炎・脳炎など
一つずつ見ていきましょう。
間質性肺炎
これは頻度も高そうです。
添付文書には4%と書かれています。
つまり25人に1人くらいなってしまうんですね。
ここでは詳しくは説明しませんが、間質性肺炎は悪化すると死んでしまうことがありますので空咳や発熱などには注意が必要です。
大腸炎
これも免疫が関連していると言われています。
キイトルーダは免疫力を上げてくれるんでしたね?
通常、「免疫力が上がる」というと良い意味で使うことが多いですが、そういうわけではありません。
事実、キイトルーダの特徴的な副作用はほとんど免疫が上がりすぎることによって起こっています。
大腸炎に関してもそうです。
下痢や血便などがひどければ大腸カメラなどの検査も受けるべきかもしれません。
内分泌障害
これがもっとも有名なキイトルーダの副作用ではないでしょうか?
話し出すとキリがないくらい副作用があるのですが、
例えば
下垂体炎、甲状腺炎、1型糖尿病、副腎不全などが知られています。
これらの病気は全身に作用するので、いろいろな症状が出てきます。
一番多いのは「気だるさ」かもしれませんね。
糖尿病で高血糖になっても甲状腺に異常が出ても、副腎不全になって血圧が下がっても確実に「ものすごくだるくなる」と思います。
「だるさは治療のせいだから仕方ない」と決めつけず、主治医に相談した方が良いと思います。
これはキイトルーダに限ったことではないですけどね。
ギランバレー症候群や心筋炎・脳炎など
ギランバレー症候群はお聞きになったことがありますか?
手足がしびれて動きづらくなったりする神経の病気です。
他には重症筋無力症という病気なども発症すると言われています。
通常の抗がん剤ではありえない副作用ですね。
どちらも放っておくと呼吸に障害が出て致命的になってしまう可能性がありますので、注意が必要です。
全身に多彩な副作用が出るのがキイトルーダの特徴
そういうわけで、キイトルーダを使っていて少しでも何かおかしいと感じたら主治医に相談するべきです。
どんな些細なことでもいいと思います。
まとめ
今日はキイトルーダについて解説しました。
大腸癌に対して初めて適応になった免疫チェックポイント阻害薬です。
これからいろんな試験結果が出てきて、キイトルーダのポジショニングは変わっていく可能性がありますが、現状はセカンドライン以降で単独で使用すると考えてください。
次はフッ化ピリミジン系の抗がん剤について解説したいと思います。
これで大腸癌に使用する薬剤はすべて網羅したことになります。