大腸憩室を悪化させないためにはガスを減らせ?
こんにちは、べんぴ先生です。
今日は大腸憩室(だいちょうけいしつ)について取り上げてみたいと思います。
大腸憩室についてご存知ない方もいらっしゃると思いますので、大腸憩室についての簡単な説明から始まり、大腸憩室と食事の関係についても一緒に考えていきましょう。
youtubeでも解説しております。先にこちらの動画を見てからブログを読むと理解が深まるかと思いますので、オススメです。
大腸憩室って何?

大腸の中の圧が何かの原因で上がることによって大腸の壁の弱い部分が裂け、粘膜が袋みたいに飛び出すことで大腸憩室が発生すると言われています。
粘膜だけ飛び出すというのがポイントで、筋肉ごと飛び出す憩室もあるのですがほとんどは粘膜だけ飛び出したものです。

最近どんどん大腸憩室は増えています。
日本人のうちどれくらいの人が大腸憩室を持っているか、というのは報告によってまちまちですが、僕の印象では大腸カメラを行った人の40%くらいは憩室があるんじゃないでしょうか?
もちろん数の多い少ない、大きさが大きい小さいの差はありますけれども。
大腸憩室の大きさ、個数は個人差がものすごくあるんやで。
若い人は右側の上行結腸に多くて、年をとると左側のS状結腸に多くなると言われていますし、実際僕の印象も同じです。

若い人は上行結腸に多く、歳をとるとS状結腸に憩室ができやすくなるんやで。
大腸憩室を放っておくとどうなるの?
実際大腸憩室がある人はその後どんな経過をたどるのでしょうか?
①大腸憩室があったとしても一生特に問題なく人生を終える人
②大腸憩室によるお腹の張りや痛みが出る人
③大腸憩室からの出血や炎症を起こしてしまう人(繰り返すことが多い)
①大腸憩室があったとしても一生特に問題なく人生を終える人
これは問題ないですね。
内視鏡とかお腹のCTで偶然発見されたけれども特に問題を起こすことなく経過するパターンです。
特に治療も必要ありません。
②大腸憩室によるお腹の張りや痛みが出る
このパターンも実際に存在します。もちろん本当に大腸憩室のせいでお腹の張りや痛みが出ているかどうかは確認しなくてはいけません。
具体的には内視鏡検査やお腹のCT、超音波検査などで他に病気が隠れていないかチェックする必要があります。
他の検査で問題がなければ大腸憩室による症状と考えます。
大腸憩室による症状と言うためには、他の病気を除外する必要があるんやで!
だいたい、大腸憩室症の4人に1人くらいお腹の張りや痛みなどの症状が出ると言われています。
大腸憩室がある人の四人のうち一人くらいに症状が出るんやで。
③大腸憩室からの出血や炎症を起こしてしまう人(繰り返すことが多い)
これが厄介なんです。
大腸憩室自体は別に病気というわけではないのです。
ただ、症状が出てしまったり、出血や炎症を起こしてしまったら病気になるんですね。

具体的には
炎症が起きると大腸憩室炎
出血してしまったら大腸憩室出血
と呼びます。
・憩室に炎症が起こると憩室炎と呼ぶ
・憩室から出血すると憩室出血と呼ぶ
しかも一度きりなら良いのですが、憩室炎や憩室出血はやたらと繰り返すことが多いです。
憩室炎や憩室出血は繰り返すことが多いんやで。

良性疾患とは言え入院になることも多いので、時間とお金のロスが大きいストレスフルな病気なんですね。
大腸憩室症は良性の疾患やけど、意外と厄介やねんで。
大腸憩室にはどんな治療をするの?
①大腸憩室があったとしても一生特に問題なく人生を終える人
もちろんこの場合は治療は必要ありませんね。
ただ、大腸憩室が多い人は小さな大腸ポリープができやすいと言われているので、定期的には内視鏡検査を受けるのが良いかもしれませんね。
大腸憩室があると小さなポリープができやすいと言われているで。
②大腸憩室によるお腹の張りや痛みが出る
これが難しいんですよね。
現状では後でお話しする食事療法くらいしかありません。
他がないんですね。
なのであんまり治らないことが多いです。
でも最近治療法があるのではないかと言われています。
それはメサラジンという薬です。
メサラジンはもともと炎症性腸疾患と呼ばれる潰瘍性大腸炎やクローン病に対して使用する薬です。
憩室炎の発症予防にもなるようなので今後一つの選択肢になりそうですね。
ただ、保険適応がないので現時点では憩室炎に対して使えません。
これから使えるようになるかもしれませんね。乞うご期待です。
メサラジンはこれから使えるようになるかもしれへんで。
③大腸憩室からの出血や炎症を起こしてしまう人(繰り返すことが多い)
まずは大腸憩室出血について考えてみましょう。

出血したら止めるしかありませんよね。
ただ、大体の憩室出血は自然に止まります。
自然に止まらなければどうするか?
まずは内視鏡です。大腸カメラですね。
大腸カメラで止血処置を行います。

これでほとんどは大丈夫です。
ただ、内視鏡でも止められない場合もあります。
そんな時は手術や血管カテーテル治療を行います。
どちらを選択するかは入院した病院のパワーバランスによりますね。
憩室出血はほとんどの場合大腸カメラで止められるけれど、たまに手術やカテーテル治療が必要になるんやで。
最近は血液をサラサラにする薬(抗血小板薬や抗凝固薬と呼びます)を飲まれている高齢者が多いので、血が止まりにくいことが多いです。
憩室出血が起こった時にこの薬を止めるのか続けたままにするのかは、ケースバイケースですね。
あとロキソニンなどの解熱鎮痛薬も意外と血が止まりにくくなるので注意が必要ですよ。
ロキソニンは意外と怖い薬なんやで。みんな勘違いしてることが多いで。
次は大腸憩室炎について考えてみましょう。

丸で囲ったところに憩室が多発しています。
ちなみにこのCTは炎症がかなり強いです。
膣に炎症が及んで、穴が開いてしまった症例です。
憩室炎はほとんどの場合は軽症なので、抗生剤治療と腸管を安静にすることで治ります。
入院する必要がないことがほとんどで、外来通院だけでOKです。
ただ、痛みが強くて腹膜炎になっていて炎症反応がかなり高くなっている場合や、膿瘍(お腹の中にウミがたまる)ができている場合は入院が必要になります。
憩室炎は基本的に外来通院でOKやけど、ひどいと入院が必要なんやで。
基本的には抗生剤の点滴や絶食などで改善することが多いですが、場合によっては手術が必要になります。
あとは憩室炎を何度も繰り返していると、炎症によって腸管が細くなることがあります。
あまりにも細くなってしまうと、便が通らなくなってしまうので手術が必要になります。
大腸憩室に良い食事とは?
これが今日の本題です。
医学の教科書を読んでいるとこう書いてあります。
高繊維食を食べると憩室はできにくいし憩室炎になりにくくなる
これがずいぶん昔から言われていることです。
つまりこういうことです。
食物繊維の多く含まれる食事を摂取する
➡︎便秘になりにくい
➡︎腸管の中の圧が上がりにくい
➡︎大腸憩室ができにくいし、大腸に負担もかからないので憩室炎にもなりにくい
それでは、本当に食物繊維を多く取ることが大腸憩室の症状改善や憩室炎予防につながるのか、調べてみましょう。
ここ最近この疑問に対するメタアナリシスと呼ばれるものが相次いで報告されました。
結論は
高繊維食が大腸憩室の症状改善や憩室炎予防になるという明確なエビデンスは存在しない。それにもかかわらず高繊維食は勧められ続けている。
実際、理論的に考えたら
高繊維食はむしろ大腸憩室による症状を悪化させたり、憩室炎を発症させてしまうのではないか
と僕は思います。
その理由については食物繊維やオリゴ糖がなぜ便秘解消に良いか、について考える必要があります。
それは
小腸でほとんど吸収されずに大腸に届き、善玉菌の餌になるからです。
詳しくは下の記事を参考にして頂きたいのですが、
腸内細菌が食物繊維やオリゴ糖を食べる時にガスを発生させる、ということに着目してください。
ガスとは水素ガスやメタンガス、二酸化炭素などでしたね?
食物繊維をたくさん食べると必然的に大腸の中がガスでパンパンになりますよね?
もともと大腸憩室は筋肉のない粘膜だけが外に向かって飛び出した、壁の薄い部屋です。
そこにガスがパンパンにたまるとどうなるか?
腹痛やお腹の張りなどの症状が出てもおかしくないですよね?
そして憩室に炎症を引き起こし、憩室炎になるリスクも高いと思いませんか?
つまり
低FODMAP食は憩室の発生や憩室炎のリスクを抑えられる可能性がある
ということです。
低FODMAP食は憩室の発生や憩室炎のリスクを抑えられる可能性があるんやで。
FODMAPについては以下の記事を参考にしてくださいね。
実際、過敏性腸症候群(IBS)と大腸憩室による症状には深い関係性があるという報告があります。
もともと低FODMAP食はIBSのための食事でしたよね?
食事によるガスの発生を少なくすることでIBSの症状もよくなる可能性があるのでした。
他にも面白い文献がありました。
大腸憩室は体の右側の上行結腸と左側のS状結腸に多発するのですが、
右と左で憩室のできる原因が違う可能性があるというものです。
右側の上行結腸は若者に多く、S状結腸は年齢を重ねるごとに増えていくのでしたね?
・上行結腸の憩室は乳糖不耐症のせいでできる可能性がある
・S状結腸の憩室は小麦の摂取のせいでできる可能性がある
上行結腸の憩室は乳糖不耐症のせいでできる可能性がある
まずはこちらから説明してみましょう。
実は乳糖はFODMAPの中で一番ガスを発生させる(発酵させる)のに必要な時間が短いと言われています。
だいたい1〜2時間と言われており、小腸から最も近い上行結腸でガスを発生させている可能性があるということです。
乳糖不耐症は子供の頃から発症しているので、上行結腸の憩室は若者に多いのは当然だということですね。
ちなみに乳糖不耐症はこちらでまとめてありますので、参考にしてみてくださいね。
S状結腸の憩室は小麦の摂取のせいでできる可能性がある
今度は小麦についてお話ししましょう。
小麦にはフルクタンというFODMAPが含まれているのでしたね?
フルクタンはガスが発生するまでに(発酵までに)2〜6時間くらいかかるので、今度は小腸から少し遠い大腸の左側、つまりS状結腸にガスや液体が溜まってしまうのです。
つまり食べ物を発酵させる時間が大腸のどこに憩室ができるかに関わっている
ということです。
食べ物と憩室に強い関連性がある可能性があるんやで。
まとめ
ここで紹介したは仮説なので、100%正しいとはもちろん言えません。
現時点で大腸憩室の症状を改善するために低FODMAP療法が有用というエビデンスはしっかりしたものがありません。
ただ、食物繊維をたくさん食べると良いというしっかりしたエビデンスがないのもまた事実なのです。
現時点で憩室が引き起こす症状に対して治療法が定まっていない以上、食事療法を試してみるというのは価値のあることなのではないでしょうか?
少なくとも理論的に考えると高食物繊維食よりも低FODMAP療法の方が憩室症状改善や憩室炎予防には効果的かと考えます。
今日もお疲れ様でした。