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下痢がずっと続く。原因は何が考えられる?
こんにちは。
だいぶ便秘についてのブログは充実してきたので、そろそろ下痢についても書いていこうと思います。
今回はまず「下痢が続くときにどんな病気が考えられるのか」についてまとめてみたいと思います。
慢性下痢って何?
なぜ急性下痢と慢性下痢に分ける必要があるのか、その理由は考えるべき病気が変わるからなのです。
ちなみに1ヶ月以内に治る下痢の原因にはどんなものがあるかご存知ですか?
書き出してみましょう。
・感染症
・薬の副作用
・なんらかの中毒
圧倒的に多いのは感染症ですね。
ウイルス性胃腸炎やカンピロバクター腸炎などです。
ウイルスにはノロウイルスとかが多いですね。
カンピロバクターは生焼けの鶏肉を食べた後によくなるやつですね。
ほとんどの人が経験されたことがあるのではないでしょうか?
感染症は放っておけばほとんど治るので抗生剤も必要ないことがほとんどです。
薬の副作用は薬をやめれば良いですしね。
急性下痢に対する基本的な方針は
水分さえしっかり取れていれば放っておいて大丈夫
です。
慢性下痢ではどんなふうに検査や治療を受ければ良い?
慢性下痢の原因はたくさーんあります。
その中から一つ一つこれは違うこれも違うと言って除外していく、というのが一般的な考え方です。
ただ、優劣をつけずに一つ一つ除外していくと無駄な検査や治療が増えてしまい、お金も時間も浪費してしまうので賢いやり方とは言えません。
慢性下痢の場合は今すぐ命に関わると言う病気はほとんどありませんので、基本的にはよく出会う病気から順番に除外していくことが基本的な方針です。
もちろん一発診断的な病気もありますが、それはあくまでも例外です。
コツコツと考えていくのですね。
大きく頭の中で原因を2つに分けるとすっきりします。
・まず考えるべき慢性下痢の原因
・次に考えるべき慢性下痢の原因
こんなふうに分けて考えるとすっきりです。
ちなみに慢性下痢の人の中には過敏性腸症候群(IBS)や機能性下痢症と診断された方がたくさんいらっしゃるのではないでしょうか?
本来IBSや機能性下痢症は除外診断と言って、今から説明する慢性下痢の原因を片っ端から除外した上で診断されるものです。
ちなみにIBSと機能性下痢症の違いは腹痛があるかないかです。
腹痛を伴うものがIBSで、腹痛のないものが機能性下痢症です。
正直なところ、なんでもかんでもIBSと診断されることが多いです。
特に消化器内科の医師以外からIBSと診断された方は実際は違う原因がある可能性が高いですね。
もしもしっかりと話も聞かれず、検査もされずにIBSという診断がなされているなら、すごくもったいないことです。
僕はたった一つの薬でピタッと下痢が止まったということを何度も経験しています。
治療法がしっかりとあるものも多いので、一緒に一つ一つ確認していきましょうね。
まず考えるべき慢性下痢の原因
それでは一つずつ確認していきましょう。
一旦下痢の話からずれますが、
医者のカルテの書き方というのはだいたい決まっているのはご存知ですか?
主訴
既往歴
服薬歴
家族歴
アレルギー歴
喫煙・飲酒歴
現病歴
初めてお会いした患者さんの場合はこんな感じでカルテを書いていきます。
学会で症例を報告するときもこの順番に書くことが多いですね。
一つずつ簡単に説明すると
主訴・・・これはメインの症状です。この場合だと下痢ですね。
既往歴・・・今までにかかった病気のことです。「きおうれき」と読みます。
服薬歴・・・今飲んでいるお薬や昔使っていたお薬ですね。
家族歴・・・ご家族でガンや免疫の病気などにかかったことがないか、お聞きします。
アレルギー歴・・・文字どおりアレルギーがあるかどうかですね。食べ物、薬、花粉症などについてお聞きします。
喫煙・飲酒歴・・・タバコ、お酒についてお聞きします。
現病歴・・・症状がどんなふうに始まったのか、他に症状はないかなど詳しくお聞きします。
下痢の鑑別診断もこの順番で考えると良いかなと思います。
現病歴が一番下にあるのが面白いと思いませんか?
多分皆さん病院に受診したら、今までの経過をすぐ伝えたくなりますよね?
でも、経過についてお聞きする前にたくさん知っておかなければいけないことがあるのです。
ちなみに病院を変わるごとに毎回毎回このようなことを聞かれて嫌な思いをされている方がいらっしゃるのではないでしょうか?
医療者側も実は辟易していることが多いです。
時間ももったいないですし、正確性に欠けますし。
というのも電子カルテは病院ごとに全く違うので、患者さんの情報は病院間で連携されていないのです。
これを行うためにはクラウドサービスが必要であり、医者もおそらく切望していますが、患者さんの病気に関する情報というのは非常にデリケートなものなので、安全性が担保されていなければサービス展開ができないんですね。
なので思うように進んでいないのが現状です。
将来的にはまず間違いなくクラウドに患者さん一人一人の情報が保管されていて、医療者が患者さんの許可を得て、患者さんの情報にアクセスすることになると思われます。
そうなると今までこんなふうに毎回お聞きしていた時間を、もっと患者さんの症状などについて聞く時間に当てられますし、情報の正確性も上がります。
みんなハッピーということですね。
しばしお待ちください。
それでは下痢について考えていきましょう。
主訴
主訴は下痢ですよね?これ以外はないと思うので次にいきましょう。
既往歴
下痢の鑑別において特に大事なのは以下の3点です。
・お腹の手術をしたことがあるか?
・今かかっている全身の病気はあるか?
・膵臓の病気はあるか?
お腹の手術をしたことがあるか?
これ実はめちゃくちゃ大事です。
詳しくは別の機会に述べますが、お腹の手術後の下痢は非常に多いです。
どんな手術をしたかによって考えられる病気や治療方法が変わってきますので、術式まで知りたいところです。
例えば胃腸であればどんなつなぎ方をしたのか?
胆管(胆汁の管)や膵管(膵臓の管)はどのようにつないだのか?
などです。
ただ、患者さん、特にご高齢の方はどんな手術をしたか覚えていないことが多いです。
わざわざ手術をした病院に問い合わせをさせていただくことが多いですが、10年経つとカルテが消えてしまうので、結局わからないこともあります。
お腹のCTや内視鏡検査でわかる範囲で確認することがあります。
今かかっている全身の病気はあるか?
今治療中の病気で全身に影響を及ぼすようなものがあるかどうかは知っておきたいですね。
例えば甲状腺の病気などです。
甲状腺の病気のコントロールが悪ければ下痢になる可能性があります。
その場合の治療は甲状腺をしっかりコントロールしていただくことと、脱水や体のバランスが崩れないように点滴などで補うことになります。
それだけで下痢が治ることが多いのですね。
もちろん甲状腺以外にもコントロールが悪いと下痢を起こしうる病気はまだまだありますので別の機会に取り上げたいと思います。
膵臓の病気はあるか?
膵臓関連の下痢は思っているより多いです。
膵臓という臓器はアミラーゼなどの消化酵素をたくさん出してくれる臓器です。
膵臓がなんらかの理由でダメージを受けると消化酵素がうまく出なくなります。
そうなると食べ物の消化がうまくいかなくなり、小腸でうまく吸収できなくなります。
そうすると下痢になってしまうのですね。
膵臓が悪い時には脂肪便になることが多いです。
脂肪便は匂いが臭く、水に浮くゴワゴワした便で、トイレを流した後にもへばりつくことが多い特徴的な便です。
服薬歴
今どんな薬を飲んでいるか?
今は飲んでいないけど、昔飲んでいた薬には何があるか?
ということです。
ある報告では慢性下痢の4%は薬の副作用と言われています。
7%という報告もあります。
僕らの実際の感触としてもお薬が原因の下痢って多いですよ。
例えば甘草ですね。
甘草(かんぞう)は漢方薬に含まれることが多いです。
なぜか漢方薬は薬ではないと思って内服されている方が多いのですが、立派な薬なので副作用もあります。
甘草は下痢を引き起こしますし、体のバランスを崩す作用があるので、実は注意が必要な薬なんですね。
また別の機会に薬が原因の下痢については取り上げたいと思います。
少し作用機序としては違うのですが
抗生剤を最近使用していないかどうかもものすごく大事なファクターです。
Clostridium.difficileによる偽膜性腸炎と呼ばれる病気を考えなくてはいけないからです。
この辺りも別の機会にご説明しますね。
家族歴
ご家族に大腸ガンなどのガンを患った方がいらっしゃるかどうかなどです。
他には炎症性腸疾患(IBD)についてもお聞きすることが多いです。
アレルギー
実はアレルギー関連の下痢は知られています。
ただ、ご自身で認識されていないことが多く、しかもご自身で認識しているアレルギーと下痢の原因が一致しているとは限らないのです。
なので一応お聞きするくらいと思っておいてください。
喫煙・飲酒歴
喫煙と下痢の関係については・・・うーん、関連があるとは言えなさそうですが、
喫煙しているといろいろな病気にかかりやすいですし、周囲も不健康になるのでやめた方が良いですよね。
逆にアルコール関連の下痢は多いです。
アルコール依存症の人は基本的にいつも下痢気味です。
教育入院すると逆に便秘になってしまうというのは有名な話ですね。
心当たりのある方はやめてみて下痢が止まるようならアルコールが原因です。
簡単ですね。
アルコールが下痢を引き起こすメカニズムは色々ありますが、それについては別の機会にご説明します。
ここからが本当の診察です。