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過敏性腸症候群が治らない方へ。その診断、本当に合ってる?
みなさんこんにちは。べんぴ先生です。
今日は過敏性腸症候群と診断されて、治療を受けているのになかなか症状がよくならないという方のために、お話ししていきたいと思います。
例に習って過敏性腸症候群という名前は長いですので、IBS(アイビーエス)と呼ばせていただきます。
ぜひお付き合いください。
過敏性腸症候群の診断ってどうやってするの?
IBSをズバッと診断できる検査は今のところないんやで。
わかりにくいかもしれませんので説明します。
例えば大腸癌。
大腸癌はズバッと診断できる検査なのでしょうか?
答えは基本的にyesです。
大腸癌を診断するためには大腸カメラ検査を行い、大腸癌を見つけて、そこから組織を採取するのです。

これが大腸癌ですね。
組織を採取することを生検と呼びます。
取れた組織を顕微鏡で見て、癌細胞を見つければ診断確定です。
つまり大腸癌はズバッと診断できるわけです。
逆にIBSの診断はどうでしょうか?
大腸カメラを行い、生検を行うとします。
何かIBSに特徴的な「これだっ!!」という顕微鏡の所見があるのでしょうか?
IBSではこんな傾向があるという程度の所見は知られているのですが、決定づけるようなものは今のところありません。
ちなみに下痢型IBSの患者さんは大腸カメラを行うと蠕動運動が活発な時が多いです。
これは僕は意外と有用であると考えている所見ですが、これがあれば確定というようなものではありません。
下痢型IBSの人は大腸の蠕動が活発な時が多いんやで。でもその所見があれば確定というわけではないんやで。
先ほどべんぴ先生とガンコちゃんの話し合いであったように、血液検査や便の検査は他の病気を除外するためにはとても有用なのですが、「これがIBSやっ!!」というような検査はありません。
つまり
IBSは大腸癌のようにズバッと診断できないというわけです。
IBSは今のところズバッと診断できないんやで。
じゃあどうするか?
一応IBSには診断基準があります。
診断基準というものは、これとあれとそれを満たせばこの病気と言っても良いですよ、というものです。
IBSの診断基準は簡単に言うと
「腹痛が慢性的にあって、その腹痛が排便と関連があるものをIBSと呼びましょう」
というものです。
つまりIBSと診断されている患者さんの中に、色んな病気を持つ方が隠れている可能性が高いということです。
隠れている病気というのは基本的にはしっかりと治療法があるので、もったいない限りなんですね。
しかもこれらの病気を除外せずにIBSとして治療を行っていると一向に治らないどころか、薬の副作用が出てしまい、わけがわからなくなってくるなんてこともザラにあります。
しっかりと治療法が確立している病気を探し出す必要があるんやで。
なので「あなたはIBSです。」と言う前に、必ず他の治療できる病気がないのかを確認する必要があるんですね。
あるいはIBSと診断した後にも「本当は違う病気が隠れているんじゃないか?」と疑問を持ちながら治療を続ける必要があるということです。
これが今日の最重要ポイントです。
あなたは本当にIBSですか?
除外しなくてはいけない病気
ここから先はIBSと間違いやすい病気について、簡単に解説していきたいと思います。
IBSには便秘型、下痢型、混合型、分類不能型があるのですが、はじめの2つについて簡単に考えていきましょう。
便秘型IBSと間違いやすい病気
便秘型IBSと普通の便秘の違いは腹痛が強いかどうかですね。
IBSというのは基本的に腹痛があるものなので、その点で違うというわけです。
便秘型IBSの治療を行っていく上で、必ず便秘を引き起こすいろいろな病気を除外する必要があります。
詳しくは以下の記事でまとめていますので、参考にしてくださいね。
腹痛が強くても、ちゃーんとこれらの病気を丁寧に除外してからIBSと診断する必要があるんですね。
便秘型IBSの場合は言ってしまえば、治療法は通常の便秘と大きく変わることはありませんので、詳しい説明は省いてしまいます。
下痢型IBSと間違いやすい病気
下痢型IBSの方は当たり前ですが、下痢を引き起こすような病気を除外する必要があります。
下痢を引き起こす病気の考え方については以下の記事でまとめていますので、参考にしてくださいね。
その中でもよく見かけるのは胆汁酸性下痢や食事や薬によるものです。
胆汁酸性下痢にはコレバインという特効薬がありますので、これを見逃すのは本当にもったいないですよ。
胆嚢を切除した後に下痢が止まらない人も胆汁酸性下痢の可能性があります。
胆汁酸性下痢については以下の記事でまとめていますので、参考にしてくださいね。
食事や薬による下痢というのもものすごく大事です。
頻度が意外と多い上に、原因となっている食事や薬をやめれば下痢がすっと治ることが多いんですね。
こんな風に治療が簡単なものというのは、何がなんでも見つけ出したいものです。
食事や薬による下痢については以下の記事にまとめていますので参考にしてくださいね。
あとは頻度が少し低いものですが、意外と見過ごされている疾患について解説したいと思います。
1顕微鏡的腸炎
2クロストリジウムディフィシル感染症
3腸管スピロヘータ症
4ジアルジア感染症
実はこの4つの病気というのは内視鏡で大腸を覗いても炎症所見がないことが多いのです。
つまりパッと見ると正常ですよ、ということです。
そりゃあ見逃してしまいますよね。
なので大腸カメラまでやったけれども特に異常がなくてIBSの診断に至った、という場合でも色んな病気を見逃している可能性は残っているのですね。
下痢が続くときは、大腸カメラで綺麗な粘膜であっても組織を取ったり、便を培養したり、直接便を顕微鏡で見ることが重要なのです。
一つずつ簡単に解説します。
①の顕微鏡的腸炎。これはPPI(ピーピーアイ)と呼ばれる胃薬や痛み止めのロキソニンなどを使うことで起こる腸炎です。
ロキソニンは誰もが日常的に使用する薬です。
薬局に普通に売っていますし、頭痛や腹痛に対して日常的に使われていることが多いと思います。
ロキソニンを飲み続けても顕微鏡的腸炎のリスクになるんですね。
僕の私見を言わせていただくと
これほどまでに医療者と非医療者の認識がずれている薬もなかなかないんじゃないか
と思います。
はい。これは覚えておいてください。
ロキソニンはとても怖い薬です。
ロキソニンをなめてたらあかんで。
ロキソニンやボルタレンは同系統の薬なのですが、本当に何度も何度もこれらの薬で患者さんが苦しめられているのを見てきました。
ご高齢の方にとっては劇薬にもなりうるのですが、若者に対しても時に悪さをします。
胃潰瘍の原因になったり、腎不全になってしまったり、この場合のように腸炎になってしまうリスクがあるんですね。
どうしてもの時以外は、ロキソニンはボルタレンは飲まない。
これが鉄則です。
ロキソニンやボルタレンはどうしてもの時だけ飲むんやで。
PPIという薬は胃薬なのですが、これも厄介な薬です。
これも別の機会にまたご説明したいと思いますが、最近異常に処方されている薬の一つです。
とても画期的な薬であることは事実です。
例えば胃潰瘍や十二指腸潰瘍。
そうです。実は胃潰瘍や十二指腸潰瘍はこのPPIと呼ばれる薬を飲めばほとんど治ります。
それでも治らない、血が止まらない、消化管が細くなって食べられなくなったなどの場合は手術をするのです。
では昔はどうだったのか?
実は昔は手術しか方法がありませんでした。
胃潰瘍や十二指腸潰瘍という良性の病気に対して、手術をすることでしか治療できなかったんですね。
でもこのPPIという薬ができたことで、劇的に治療が変わったんです。
外科医からほとんどの潰瘍の手術を取り上げた薬といっても過言ではありません。
こんな風にPPIはとても治療効果の高い薬なのですが、最近では使われすぎています。
一度飲み始めるとなかなか止めどきがなくなってしまうんですね。
このPPIという薬は安全な薬という印象がなぜかあるのですが、最近では色んな副作用があることがわかってきています。
まだ確定はしていませんが、ずっと内服を続けることで認知症のリスクが上がることや骨折のリスクが上がることが疑われています。
そして確定的なのは、このように顕微鏡的腸炎を引き起こしてしまうことです。
つまりは薬剤性なので、薬をやめれば下痢が止まることがほとんどです。
僕の私見を言わせていただくと
今PPIを飲んでいる人のうち少なくとも半分の人はやめられるやろ
です。
PPIは少なくとも半分の人が止められるはず。
ちなみに覚える必要はないのですが、PPIはプロトンポンプインヒビターと呼ばれる薬で、商品名では以下のものがあります。
ランソプラゾール
タケプロン
ネキシウム
オメプラゾール
パリエット
これらに該当する薬を飲んでいる方は今一度続ける必要があるのか、主治医と検討していただいた方が良いです。
PPIについては話し出すとさらに長くなってしまいますので、別の機会でまとめたいと思います。
再度先ほどのIBSと間違われやすい病気について見てみましょう。
1顕微鏡的腸炎
2クロストリジウムディフィシル感染症
3腸管スピロヘータ症
4ジアルジア感染症
1番について説明しましたね?
次の2〜4は全部腸管の感染症です。
特に3番と4番は見かけることは少ないのですが、実は見逃しているだけの可能性もありますね。
2番のクロストリジウム感染症は実はすごく大事な病気です。
名前は難しそうですが、中身も難しいです。笑
クロストリジウム感染症は要するに抗生剤を使った後に起こる腸管の感染症です。
クロストリジウムディフィシルという菌はもともと腸にいる菌なのですが、抗生剤に強いんですね。貝のようにからにこもって抗生剤という嵐が去るのを待つことができるんです。
そして焼け野原になった後に、繁殖して猛威を振るうわけです。
言ってしまえば抗生剤の副作用ですね。
ほら、風邪でも何でも抗生剤を出す医者がいるじゃないですか?
はっきり言ってしまえば、そのような医者は信じてはいけないです。
抗生剤を飲むリスクについては当ブログでは何度も何度もお話ししていますが、
本当にたくさんのリスクがあるんですよ。
このブログを読んでくださっている皆さんは、医療に対して関心がある方ばかりだと思いますので大丈夫だと思いますが、くれぐれも安易に抗生剤は飲まないようにしてください。
もし医者が風邪に対して抗生剤を処方したならば、「この薬は何のために飲むのですか?」と言ってやってください。
たぶん適当な返事をされるだけですけど。笑
そして病院をかえた方が良いでしょう。笑
クロストリジウム感染症については別の機会にしっかりお話しする予定です。
ジアルジアやスピロヘータについては、「色んな病気があるんやな〜」くらいに考えていただけたら良いです。
まとめ
今日お話ししたことについて簡単にまとめてみます。
・IBSはズバッと診断できない。
・いろいろな病気を除外した上で、慎重にIBSと診断する。
・IBSと診断した後でも、本当にIBSかどうか疑い続ける
・便秘型IBSよりも下痢型IBSの方が、原因を特定できれば特別な治療をできるものが多いので、頑張って原因を探し当てる。
・大腸カメラで異常がなくても、IBSとは限らない。
こんな感じです。
今日は余計な話をしすぎて長くなってしまいましたので、この辺りで終わりにします。
今日もお疲れ様でした。