抗生剤が下痢の原因になる?
みなさんこんにちは。
べんぴ先生です。
今日は抗生剤と下痢の関係について解説していきたいと思います。
ぜひお付き合いください。
抗生剤が腸内細菌に及ぼす影響
抗生剤というのは細菌に対して効果を発揮する薬です。
ペニシリンとか。
細菌に対して効果を発揮するというのがポイントです。
決してウイルスではありませんよ。ウイルスと細菌は違います。
例えば風邪。
風邪はウイルス感染ですので抗生剤は効きません。
なので風邪に抗生剤を使用するというのは滑稽でしかないということです。
効かないどころか害でしかありません。
例えば細菌が原因の肺炎に対して、飲み薬の抗生剤を使用するとします。
抗生剤は肺炎の原因となっている細菌に対して効果を発揮してくれるのですが、それと同時にもともと体内にいる腸内細菌に対しても効果を発揮してしまいます。
腸の中で爆弾が爆発して、焼け野原になっているのをイメージしてください。
腸内細菌は腸の中に無数に存在しており、善玉菌、悪玉菌、日和見菌(ひよりみきんと読みます。良くも悪くもないやつです。)が良いバランスを保って腸内細菌叢というものを作り出しているんですね。
そこに一発爆弾が落ちるわけです。
爆弾はほぼ皆殺しにするので、もうそれこそボロボロになっちゃうわけです。
本物の爆弾と同じです。
抗生剤にも強さがあるので、それこそ手榴弾から原子爆弾クラスまでありますが、「抗生剤の強さ」については深い議論が必要なのでここではやめておきます。
抗生剤を使用した後に、普段は比較的大人しい自己主張の少ないタイプの腸内細菌がいきなり覇権争いに勝つことがあるんですね。
大空襲で焼け野原になった後に東京の一等地を買い占めるおっさんみたいな。
今日は2つの菌が主役になります。
そいつらがそれぞれ特殊な大腸炎を引き起こすんですね。
つまり抗生剤を使用することによって、2種類の大腸炎が副作用として起こりうるということです。
抗生剤を使うことで大腸炎が起こりうるんやで。その大腸炎には大きく分けると2種類あるんやで。
その2つの菌というのがこちらです。
クレブシエラ・オキシトカ
クロストリジウム・ディフィシル
抗生剤も正しく使えば本当に頼もしい存在なのですが、こんな風に副作用もしっかりあります。
必要な時に抗生剤を使って、それでも腸炎になってしまう時もあるでしょう。
それは仕方のないことで、腸炎になったらそれに対して対応するしかありません。
でも例えば風邪のように全く抗生剤が必要でない病気に対して抗生剤を使用し、腸炎になってしまったらどうでしょうか?
目も当てられませんよね?
抗生剤を無駄に使用することで耐性菌が増えてしまい、本当に必要な時に抗生剤が効かなくなる可能性もあります。
抗生剤の使用に関しては、それこそ国が力を入れてコマーシャルを打つくらいするべきだと思うのですが、日本ではあんまり重要視されていませんね。
それこそ本来は全国民で考えるべきことなんです。
抗菌薬関連出血性大腸炎
先ほど2つの菌が大腸炎を引き起こすと言いました。
もう一度見てみましょう。
クレブシエラ・オキシトカ
クロストリジウム・ディフィシル
この2つのうちのクレブシエラ・オキシトカという菌が異常に繁殖すると、この抗菌薬関連出血性大腸炎を引き起こすと言われています。
先ほどもお話しましたが、抗生剤を使用することで腸内細菌が爆弾のように吹っ飛ばされるんですね。
そうすると普段はおとなしいけれども生き残った菌が、異常に繁殖し始めるわけです。
このクレブシエラ・オキシトカもそうです。
この菌はペニシリンと呼ばれる抗生剤にすごく強いことが知られています。
つまりペニシリンに抵抗できるということです。
例えば喉の感染やピロリ菌の除菌の時にペニシリン系の抗生剤を飲んだとします。
その時に他の腸内細菌がやられているのに、クレブシエラ・オキシトカはペニシリンに強いので生き残るわけです。
無事に生き残ったクレブシエラ・オキシトカは一人天下で無双できるわけなんですね。これを医学的には菌交代現象と呼びます。
ピロリ菌の除菌と言いましたが、ピロリ菌の除菌には抗生剤2種類と胃薬1種類の合剤を使うんですね。
その抗生剤のうちの一つがペニシリン系というわけです。
ただ、ピロリ菌の除菌で出血性大腸炎が起こる確率は160人に1人くらいと言われています。
これを多いと捉えるか少ないと捉えるか。
でもピロリ菌の除菌はとても有意義なことなので、個人的には除菌によって腸炎が起こってしまったら仕方ないかなと思います。
今まで数え切れない数の患者さんにピロリ菌の除菌を行いましたが、腸炎になった方はまだ一人もいませんけれども。
まあそれくらいの確率と考えてください。
このクレブシエラ菌。
そこそこ毒性が強いんですね。
なのでこの菌が繁殖すると大腸の右側を中心に出血や炎症を引き起こします。
ちなみに大腸の右側というのは盲腸、上行結腸、横行結腸です。



抗生剤をやめるだけで抗菌薬関連出血性大腸炎は治るんやで。
それはそうと、この抗菌薬関連出血性大腸炎にものすごく似た病気があります。
それはNsaids(エヌセイズ)による腸炎です。
Nsaids覚えていますか?
ロキソニンとかイブとか、痛み止めですね。
Nsaidsが腸と相性が非常に悪いことはお伝えしましたね?
このNsaidsによる腸炎と抗菌薬関連出血性大腸炎がすごく似ているんですね。
この2つの病気はその時にどちらの薬を飲んだかを、患者さんにお聞きしないと診断できないと言われているくらいです。
それくらいそっくりなんですね。
まあどちらにしても原因となっている薬をやめるしかないんですけれども。
抗菌薬関連出血性大腸炎はこんな感じです。
クロストリジウム・ディフィシル感染症

この画像をみてください。
この白いブツブツ。
このブツブツの一つ一つは実は膜のようになっています。
医学的には偽膜(ぎまく)と呼ぶんですね。
そしてこんな風に偽膜がたくさんできて腸炎を引き起こす病気を偽膜性腸炎と呼ぶんです。
この偽膜性腸炎という病気は先ほどの抗菌薬関連出血性大腸炎ととてもよく似ています。
ほとんどの場合抗生剤を使った後に起こります。
抗生剤が腸内細菌をボコボコにするのですが、そんな悪い環境の中でも甲羅のような硬いからを持つ細菌だけが生き残ることができるんですね。
それがクロストリジウム・ディフィシルという細菌です。
他の細菌が軒並みやられているというのに、このクロストリジウム・ディフィシルは生き残り、その後増殖します。
普段はおとなしいのですが、増殖した後に毒素をたくさん作り出すんですね。
その毒素が腸の粘膜を傷害することで腸炎になってしまうんです。
偽膜性腸炎はクロストリジウム・ディフィシルという細菌が作り出す毒素によって引き起こされる病気やで。
ちなみにこの偽膜性腸炎というのはクロストリジウム感染の重症型です。
本当はクロストリジウム感染症には5つパターンがあるんですね。
ちょっと紹介してみます。
①ただ保菌しているだけで症状はないタイプ。
②抗生剤を使った後ちょっと下痢が出るだけ。抗生剤を中止したらすぐ治るタイプ。
③偽膜はできないけど腸炎になるタイプ。軽症型です。
④偽膜性腸炎
⑤劇症型偽膜性腸炎。致死的になります。
つまり偽膜がなくてもクロストリジム・ディフィシル感染症の可能性はあるんですね。
偽膜がなくてもクロストリジウム・ディフィシル感染の可能性はあるんやで。
もう少しこのクロストリジウム・ディフィシルという細菌の特徴について解説します。
・自分にとって不利な状況では殻に閉じこもる
・高熱にも耐えられる
・酸にも耐えられる
・アルコールなどの消毒薬にも耐えられる
ちなみにこの細菌は健康な成人や子供の腸の中にも少しは存在しています。
つまりこの細菌が腸の中にいるからといって、必ずしも病気を引き起こすわけではないということです。
あくまでもこの菌だけが異様に増えてしまうことで病気が引き起こされるんですね。
クロストリジウム・ディフィシルは他の人にも感染するんやで。
どんな風に感染するかというと、基本的には口から感染します。(経口感染と言います)
菌を保持している人に触った手で他のところを触る。
そこを別の人が触って、その手で食べ物を食べたり、口を触ったり。
ただ、その菌に感染するのと、病気が発症するのとはまた別問題です。
高齢者とかもともと栄養状態が悪い人とか、薬を使って免疫を下げている人などが腸炎を発症しやすいと言われています。
この菌が欧米でものすごく猛威を振るったことがあります。
日本ではものすごいアウトブレイクは起こっていませんが、今後起こる可能性は十分ありますね。
そしてこちらが大問題なのですが、最近赤ちゃんを産んだ後のお母さんに、感染予防で抗生剤を投与したんですね。
そしたらそのあとに重症の偽膜性腸炎になってしまって死亡された方がいます。
つまり健康な若い方にも劇症化する恐れがあるということです。
健康な若い人でも死亡例があるんやで。
診断には便の検査を行います。
簡単です。
便を調べるだけなので。
ただ、正確に言えば便の検査と言っても実は3種類あります。
3種類について詳しく解説しても意味がないのでここでは控えさせていただきますが、
大事なポイントだけお話しします。
クロストリジウム・ディフィシルの存在が確認されるだけではダメ。
毒素を確認して初めて診断できる。
これが全てです。
この毒素を検出するというのがもっとも大事です。
ただ、注意点が一つあります。
この毒素の検出率が意外と低いんです。
つまり100%ではないんですね。
一度便の検査でこの毒素が検出されなかったとします。
それで「よかったよかった、この患者さんは偽膜性腸炎ではなかったね。」とはならないわけです。
何度も何度も便の検査をして初めて毒素を検出できることもあります。
1回検査して毒素が検出できなくても、クロストリジウム・ディフィシル感染症は否定できないんやで。
治療は基本的には今まで使っていた抗生剤をやめた上で、別の抗生剤治療を行います。
メトロニダゾールとバンコマイシンという2種類の抗生剤を使います。(あるいは両方組み合わせて)
口からだけでなくお尻から入れる場合もありますし、点滴する場合もあります。
最近ではもう一つ抗生剤の選択肢が増えたりだとか、毒素に対する抗体が製品化されたりもして、かなりホットな分野の一つになっているんですね。
そして治療に関して大事なポイントが一つあります。
それは再発率がすごく高いということです。
クロストリジウム・ディフィシル感染症は再発率がすごく高いんやで。
4人に1人は再発するんやで。
4人に1人再発というのは、かなり高い確率です。
再発しても基本的にはまた抗生剤治療を行うのですが、3回繰り返したら糞便移植という治療を行う場合があります。
つまり誰か違う人の便を自分の腸の中に入れるということです。
何度も再発したら糞便移植するときもあるんやで。
これが嘘のようで本当の話で、なかなか治癒率が高いんですね。
とっても有効ということです。
今は日本では保険適用外なので、なかなかできる施設が限られていますが、今後はおそらくもっと普及すると思います。
糞便移植は今とってもホットな話題です。
日本はだいぶ遅れていますが、それが良いことなのか悪いことなのかは今はなんとも言えませんね。
発想はとても面白いと思いますが。
今後日本でもクロストリジウム・ディフィシル感染症がアウトブレイクする可能性は十分ありますし、その時にはテレビで特集が組まれると思います。
その時にこの病気のことを深く知るのでも良いのですが、あらかじめ知っておくのが良いに決まっています。
抗生剤は乱用しない。みんなで抗生剤を守っていく。
偽膜性腸炎をアウトブレイクさせないためにもこれが大事ですね。
抗生剤の大事さ、怖さをご理解いただければ幸いです。
今日は以上です。
お疲れ様でした。